病気の時というのは、どうしても気が弱くなってしまうもので。 しかも休日の寮の一人部屋となると、周りは音もなくシンとしていて。 いつもなら考えたりしないような事まで、ふと頭をよぎってしまう。 自分の、過去や今や、未来のこと。 昔は、自分の今も未来もなんだか心もとないものでしかなかったけれど 今朝聞いた君の声が、俺の今と未来を少し救ってくれているような気がするよ。 君に出会えて良かった。 そう、素直に思える。 俺はずっと、自分が同じ年代の他の奴らよりも随分大人なんだと思っていた。 でも、本当は違う。 本当は傷つくのがこわくて突っ張っている、 自分が何者で、何ができて何がしたいのか、それを知りたくて でも知るのがこわい、ただの子供だ。 君に出会って、いつも自然体で素直なままの君をみて ホントは俺の方がずっと子供なんじゃないかって思ったよ。 でも、そう気づいただけでも成長したってことじゃないのかな。 『ゴメン、なんだか風邪ひいたみたいで・・・せっかくのデートなのに』 『ううん、いいよ。それより、身体、大丈夫? あったかくして、ちゃんと消化のいい栄養あるもの食べて、ゆっくり休んでなくちゃ。』 『今度、必ず埋め合わせするから』 『ふふふ、ホント? じゃ、楽しみにしとくね。 でも、一番嬉しいのは、元気な高城くんに会えることなんだから、ちゃんと風邪、治してね』 俺は今まで、きれいなモノとか高価なモノとか優しいコトバとか、 そんなものを喜ぶ女の子が普通だと思っていたから、 君みたいにゴマカシのきかない女の子は初めてだった。 君の前では、素直にならざるを得ないっていうか。 でも、それが不思議とイヤじゃない。むしろ、心地いいって感じかな。 君と初めて出会ったときは、こんな風になるなんて思いもしなかった。 君のお兄さんを思う優しい気持ちがいじらしくて、 力になってあげたいとは思ったけれど、やっぱり退屈しのぎのおもしろ半分っていうのもウソではなくて。 でも、いつのまにかへこたれない強さと優しさをもつ君に俺はとても惹かれていた。 だから、君のお兄さんが発見されてしまったあと、 草薙さんの馬鹿げた陰謀のせいで、もう一度君と会えたときは、 トラブルには違いなかったけれど、草薙さんに感謝したさ。 ひんやりとした感触を額に感じて、どうも熱のせいでうとうとしていたらしい俺は目を覚ます。 「あ・・・ごめんね、起こしちゃった。熱、もう少しあるみたいだね」 どうして、君がここにいるんだろう。これは夢なのかな。 「えへ、心配になっちゃって、お兄ちゃんに会いにきたって言って中に入れてもらっちゃった。ちょっとずるい裏技だね」 いいよ、どんな技使ってたって。君が俺に会いにきてくれただけで嬉しい。 「あのね、熱あるときは、たくさん水分とって、たくさん汗かいて、熱を身体の外にださないとだめなんだって。 だから、ほらスポーツドリンク、買ってきたの。飲みたい?」 口移しで飲ませてくれるんなら、飲んでもいいかな。 真っ赤になってしまう君がかわいくて、つい笑ってしまう。 「それくらい冗談言えるんだったら、すぐに元気になれるね。」 君は怒って横をむいてしまう。半分くらい本気だったんだけどね。 少しやっぱり息苦しくて、熱がまだあるんだなって自分でもわかる。 君は心配そうに俺の顔をのぞきこむと俺にたずねる 「苦しいの・・・? 大丈夫?」 大丈夫。君がそばにいてくれるから。 「もう一度、高城くんが眠れるまで、そばにいるね」 病気の時は、どうしても人間、気弱になってしまうもので。 なのに、 君が俺の側にいてくれるというだけで、どうしてこんなに安心してしまうのかな。 君がそばにいてくれるっていうなら、このままずっと起きていようかな。 「ダメだよ、ちゃんと眠るの。元気になったら、今日の分もまとめていっぱいデートしようね」 わかった、じゃあ、眠るけど。それまで何か、話していてほしいな。 君が今日、何してたかとか。こないだ会ってから今日までの出来事とか。 今日のデートで話すはずだったいろいろなこと。聞かせてほしい。 君の声が聞こえると、なんだか気分いいんだ。だから。 でも、俺が次に目覚めたら、君はもう帰ったあとなんだなあ。残念。 それでも、いいか。今、君の声を聴いている俺は、けっこう幸せなんだから。 「おーい、高城、具合はどうだ?」 「・・・・病人だとわかっているのなら、もう少し遠慮して入ってきたらどうなんだ、加藤」 俺はせっかく気分よく眠っていたというのに、その眠りを妨げられてすっかり不機嫌だった。 「なんだよ、人がせっかく、見舞いを持ってきてやったってのによ」 「あれ、なんだ、飲み物とか果物とかあるんじゃない。せっかく持ってきたのにさ。ねえ、新井君」 「だから、俺はコイツに見舞いなんていらねえって言っただろ。」 「だって、休みの日でデートの予定まであったのに、風邪で寝込むなんて可哀想じゃない」 「たまには、いいクスリなんだよ、コイツには」 「・・・・どうでもいいから、病人の枕元で騒がないでくれないか、志村も新井も」 俺はまったく不機嫌に布団をかぶる。 「・・・まるで、僕たち以外の誰かが見舞いにきたみたいだね」 それまで黙っていた中本の一言。俺は聞こえない振りをして黙っていた。 「え〜、誰、誰かきたの?」 「けっ、どうせ、草薙さんとかからの使いじゃねえの、高城、もてるよな」 「え〜、俺、ぜったいあの人からのさし入れなんて、飲めないし食えないな。 何入ってるかわからないじゃん」 好き勝手言ってる奴らもいるけれど、俺はそれも聞こえないことにした。 ま、最後にうるさいオチがついてきたけれど、病気になるのもたまには悪くないかな。 あんなふうに不意打ちに君に看病してもらえるならね。 そんな風に考えてしまう俺は、やっぱりまだまだ青いってところかもしれない。 「デートがダメになったわりには機嫌よくて安心したよ」 そう言った中本は何か察しがついていたのかもしれないが。 もちろん、俺はしらを切り通したけどね。 なんだか、誰かに話すのがもったいないような気がしたんだ。 少し心配なのは、君に風邪をうつしてないかってことだけど。 そうなっていたら、今度は俺が、君をお見舞いにいくよ。 |