夢みる惑星







夢の中で会う人は、いつも背中しか見せなかった。
窓から真っ白に雪に覆われた地平線を眺めていた。
誰かを待っている。誰を?
どうか、自分を待って心を痛めているのでなければいい。
自分のために哀しい思いをしていなければいいのに。

動物園なんて好きではなかった。
鳥も獣も、生きるそのままの姿こそが美しい。
檻につながれ、狭い縄張りを往復する姿は 痛ましくこそあれ、美しくはない。
それでも足を運んだのは、その鳥を見たかったからだ。
宇宙を統べる万能の力を持つ女王の力をもってしても、 滅び行く種はいる。
その鳥は、この世の最後の一羽なのだという。
漆黒の羽、優雅な翼、無垢なる瞳。
だが、なんと孤独な存在であることか。
「やあね、センチになるなんてさ。あたしらしくないってわかってるけど。
 夢見が悪かったわよね。」
オリヴィエは、鳥の檻の前に立つと、そう呟いた。
故郷の星を出て以来、主星での暮らしも順調だったし、 自分には、才能があると思っていた。
誰かを美しくする力、夢を叶える手助けをする力。
仲の良い友人もいたし、寂しい思いをしたこともない。
だが、その鳥の記事を読んだとき、 どうしても会いたいと、思ってしまったのだ。
故郷を出てきたことを後悔していない。
けれど、その鳥の抱えている孤独が、 自分が捨ててきた星に抱えている孤独に重なった。
嫌いで捨てたわけではない。
でも、もう夢でしか、帰れない。
檻の中の鳥は、孤独であり、しかし美しかった。
そして、まるで、オリヴィエに語りかけるかのように、 彼に向かって近付いてくると、頭を彼の方へと垂れた。
「なあに、わかるの? かしこいのね」
オリヴィエは、そっと鳥の頭に手を伸ばした。
「せめて、夢の中でくらいは、仲間とともにあるといいね。
 もう一度、故郷で豊かに暮らす夢を、見れると、さ。」
鳥に触れた手から、温かなものが溢れていく気がした。
すべての孤独なものたちがせめて夢の中では癒されるように、 そんな思いが溢れていくようだった。

その夜、オリヴィエはまた、故郷の夢を見た。
窓辺で、父親が白く雪に埋まった地平線の彼方を眺めている。
その背中は、かつてオリヴィエが故郷を出たときよりも、 小さくなっているように思えた。
その背中に向けて、オリヴィエは語りかける。
「・・・別にさ、嫌ってたわけじゃないよ。
 家族も、この星も、さ。
 でも、ここじゃないって、言うんだよ。
 あたしの魂がさ。仕方ないじゃん、そう思うんだもの。」
父の背中は、答えない。
「でも、さ。毎日、祈ってるよ。
 みんなの心が平穏であるといいって。
 美しい夢がこの星に溢れているといいって。
 思い出して辛いんならさ、忘れてくれてもいいよ。
 不肖の息子のことなんてさ。
 あたしは、誰にも言わないけれど、ずっと覚えているからさ。」
父は答えない。オリヴィエは、黙ってその背中を見ている。
寡黙な父だった。嫌いだったわけではない。
でも、思い出を数えるほど、多く何かがあったわけでもない。
ケンカでもすれば、まだ、マシだったかもしれない。
オリヴィエは苦笑して、父に背中をむける。
その背中へ、父の声が届く。
「幸せなら、いい。お前の行くべきところへ、行きなさい」
オリヴィエは、驚いて振り向く。だが、父は、相変わらず、窓の外を眺めたままだった。
その姿をもう一度、目に焼きつけて、オリヴィエは手をひらひらとふってみせると、 もう振り返ることなく、その場を離れた。

そのころ、遠く離れた聖地に一つの兆しが見られるようになる。
それは、新たなる守護聖の誕生のしるしだった。
だが、オリヴィエはまだ、自分の運命を知らない。
『毎日、祈ってるよ、父さんのために、この星のために、ね』

END



やっと、アンジェリークに創作がアップしました。
随分と前から考えていたお話なんですが
書いてみると、あんまりたいした話じゃないなあ(^_^;;)




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