夢で逢いましょう

その日、天使が彼の元を訪れたとき、彼はいつになく寝不足な様子だった。
「遅くまで遊んでいたのですか?」
彼を良く知る天使は特に悪意なくそう尋ねる。
彼はその問いに、顔をしかめて天使を見返した。
「君はわざわざ嫌味を言うためにここまでやってきたのか。
 それとも、私になにか用事があってのことなのか。」
天使はその言葉を聞いて、自分がまた彼の機嫌を損ねるようなことを言ってしまったらしいと気づいて赤くなった。
「あの、特に用事があった訳ではないのですが、その、様子を見に来たんです。
 変わったことがなければいいです、寝不足以外は元気そうですものね」
そそくさと帰ろうとする天使を、彼はその手をつかんで引き留めた。
「変わったことがなかったわけではない。
 私の寝不足もそれに少し関係しているのでね。
 もし、君にわかることであれば、聞いてみたいことがあるのだが」
天使はその言葉に嬉しそうに顔を輝かせた。
「ええ! 私にできることでしたら! 
 まあ、シーヴァス、あなたが私を頼ってくださるなんて、嬉しいです」
その天使の喜びように、自分はいったいどんな態度を彼女に対してとっているというのかと、彼は少し頭を抱える。自分が素直でないのは認めるが、彼女を嫌っているわけでも信頼していないわけでもないのはわかってもらいたいものだ。
「それで、いったいどうしたのですか?」
天使があんまり嬉しそうに、興味いっぱいの様子だったので、彼は少しばかり後悔していた。が、いったん口にしてしまったものは仕方がない。
彼は天使と並んでソファに腰を降ろした。
「・・・夢を見たのだが・・・」
彼がしばらくの沈黙の後にやっとそう口に出すと、天使は意外そうな顔をした。
「夢、ですか。」
「そうだ。不思議な夢でそのことを考えていると、少し眠れなくてな。
 逢ったこともない人物と夢で出会うということは可能なのだろうか?」
「そんな夢だったのですか? でもそれがどうして不思議な夢だと・・・?」
そう天使が尋ねると、彼は自分が語った以上のことを尋ねてほしくはないという表情をしたが、それが照れ隠しのようだったので天使は驚いたようだった。
「未来の出来事を夢に見るということはあり得るのだろうか」
結局彼は、天使の問いには答えず、そう続けた。
天使は、しばらく考えたうえでこう答えた。
「正しい時の流れの上ではそういうことはないと思いますが・・・
 今、時の淀みにインフォスがとらわれていることを考えるとありえないとは言えないかもしれません。
 インフォスは、現在、時の淀みによって同じ時間を繰り返しています。
 ですから、本来あるべき正しい時間ととまったままの現在が交差して
 シーヴァスに正しい時の流れの行く末が見えたのかもしれませんね」
「正しい時の流れ・・・か・・・」
「そうですね、だいたい6年か7年の未来ということになるでしょうか。」
聞きもしないのに、天使がそう言い、彼はその夢を思い出したようでなにやら困ったような顔をした。
「・・・どんな夢だったんですか?」
彼がそんな顔をするのが珍しくて、天使はその夢がどんなものだったのか知りたくてウズウズしている様子だった。しかし、彼はそんな天使の顔をまじまじと見つめ、少し顔を赤くして(!)ため息をついた。
「・・・君に話すほどのことではない。
 まあ、君の説も所詮は推測ということなのだな。
 では、あれは他愛のない夢だったということかもしれん。
 引き留めて悪かったな。もう帰ってもらってもかまわないぞ」
帰ってくれてもかまわない、という言い方ではあったが、その口調ははっきりと、天使にもう帰ってくれ、と告げていた。天使はかなり残念そうにしばらく彼を見ていたが、少し寂しげな顔で一言だけ言い残すと天空へと戻っていった。
「でも、シーヴァス、あなたが夢で出会った人も今、インフォスに生きていると思えば、
 不思議ではありますが、素敵なことじゃありませんか?」
彼は天使の消えた空を見上げ、それから首を横に振る。
今、インフォスに生きている? まさか。彼はまだインフォスに存在すらしていないだろう。
「・・・本来の時の流れ? 来るべき未来?
 そんなことがあり得るだろうか?」



夢の中、彼は草原に遊ぶ幼い子供を見る。
あれは、自分だ。幼いころの、まだ幸せな頃の自分。
屈託なく笑い、母親らしい女性に戯れている。
だが・・・幼い自分が寄り添い笑いかけるその女性は、自分の母ではない。
彼女は彼がよく知っている女性だ。そして彼にとって、もっとも大切な。
だが、彼女がなぜ・・・
彼は夢の中で少し混乱してしまい、途方にくれる。
では、あれは、あの子供は誰なのだ。やはり、幼い自分なのか。それとも違うのか。
立ちつくす彼に、子供が気づく。
子供は、満面の笑みをうかべて彼に駆け寄ってくる。
その子供の後ろで、彼女も彼にむかって微笑みかけている。
そして、子供は彼に向かってこう呼びかけるのだ。
「父さま!」






   →フェイバリット・ディア
   →銀月館
   →TOP