インターバル2   依織編
秘密を共有するということは、とても甘美なことだ。
俺とむぎは、秘密を共有することになった。真っ直ぐで純粋なむぎにとっては、とても負荷がかかることだろう。けれど俺は、むぎが俺を拒まなかったことに付け込むことにした。思ったとおり、むぎは男を知らない身体だった。麻生さえ受け入れていなかった身体で、俺を拒まなかった。優しいむぎ、君は、俺を傷つけることを恐れて、自分を俺に差し出した。それが恋のせいでも愛のせいでもなく、ただ同情だったとしても。それでも俺は構わない。身体と心は深く繋がっているから――身体が俺を拒まなかったなら、心だって俺を拒まないはずだ。麻生ではなく、俺だけを見るようにしてみせるさ――優しく、ていねいに、君を包み込んで。


『なら、何も言わずに黙っていなさい。君が何もなかったように普通に振舞えば、麻生だって深追いはしない』
「なぜ、わかるの?」
『わかるさ』

麻生がもし、むぎ、君を失いたくないと本当に思うなら、俺と君とのことを深追いしたりはしないだろう。麻生は俺と君の間に「何か起こってしまったこと」を恐れるだろうから。彼は、俺と君の間に何かが「起こってしまった」ら、それをきっと許すことは出来ないだろう。それを自分でもわかっているから、きっと、君には尋ねられない。君はそれを黙っていることはできても、嘘はつけないだろうから――麻生がむぎに俺との間に起きたことを尋ねた瞬間、むぎと麻生は終ってしまう。けどね、麻生、君はむぎを疑いながらそれに耐えることができるかな? 君には無理だと思うよ。君が猜疑心に苛まれてむぎをことさらに傷つけてくれたなら――俺はそのときこそむぎを本当に手にいれる。もちろん、今のまま、尻尾を巻いてむぎから逃げ出してくれたって構わない。どちらにしたって結果は同じだ。


『……むぎ。俺はね、麻生に悪いと思う心さえ、捨てたよ。誰に憎まれても、それでも、君が俺を選んでくれるなら 』
嘘をつくには本当のことを混ぜなくてはならない。だから俺は時折、君に俺の本当の心をこぼして見せる。俺が苦しい心を吐露するたびに、むぎの瞳がゆらゆらと揺れる。まるで心を映しているように。抱きしめても逃げようとしない。冷えた俺の心をまるで温めようかとするように、俺の背中に腕を回した。そうだよ、むぎ。俺を温めてくれ、君の心までも俺に差し出して。君は、俺のたった一つの光だ。その光を暗い闇に引き摺り堕とす真似だとわかっていても、それでも俺は君が欲しい。もう少し。もう少しで、きっと君の心に、俺は手が届く。




フルハウスキス
銀月館
INDEX