Strawberry Field




春。
宮廷広場にある樹々も柔らかな色合いの花を付ける。
一年のうちで一番美しい季節。
柔らかな芝生の上に座りながら花々を見上げる少女がいた。
春の淡い色合いの中に同化するような緋色の髪を風の吹くままに
泳がせ、その瞳は何処か遠くを見ているようだ。

とうとう・・・・・・アルバレアにも春が来てしまった。
聖乙女試験も終了に近い時期。
なのに、自分はまだ迷う。
今の幸福を選ぶのか?
それとも大勢の人に祝福される未来を望むのか?
・・・・・・・・・分からない・・・・・・・・・。

何がしたいのか、で、未来は分断されるのだという。
決して他人に決める事など出来ない自分の人生。
選ぶのも自分なら掴み取るのも自分。

(・・・後悔だけはしたくない・・・・・・・・・)
花びらが風に舞う。
薄紅の淡い雪のような花びら。
花の散りゆく姿は潔く、見事だ。
それに引き換え今の自分は・・・・・他人の手助け無くば
立ち上がれない赤子のよう。

「・・・・ここにいたのか・・・・・。」
「カイン様・・・・。」
木々をかき分けるように長身の男性が現れる。
全体的に「白」という色のイメージがあるこの男性こそ
アシャンの物思いの種であるのだが・・・・・。
当然のように隣に座り同じように花々を見ている姿には
何の迷いも無いようにみえて、少し羨ましい。
好きになればなるほど己の弱さを痛感する。
側にいたい、けれどこのままでは負担になる。
なら・・・・いっそのこと諦められればどれだけマシか。

「・・・・・何を見ていた?」
「花を見ていました。花びらが何処に行くんだろうって・・・・。
そればかりを・・・・・。」
「花びらが降り積もった地面を見たことがあるか?」
「いいえ?」
「あの花びらが何処に行くのか興味本位でずっと見ていた事が
あるのだが・・・・・。」
「ええ。」
「・・・・風がすべて、持っていってしまうんだ。一瞬強風を吹かせて。
たくさんあった花びらを。」
「・・・・・・・・・・・・。」

・・・この人は何が言いたいのだろう・・・・。
花びらが風に持っていかれる、そんな事は凄く
当たり前のように思うのに。
「・・・お前も同じだ、アシャン。」
「・・・・・・・え?」
「ある日突然、風にさらわれる。そんな気がしてならない。」
「・・・・・・・・・・・。」
「何がお前に迷いを発させてるか俺には分からんが・・・・・。
ここまで頑張って来れたんだ、何も迷う事など無い。」
「ちが・・・・・・!違います!」
「・・・・何が違うんだ・・・・?」
「聖乙女になるだけだというのなら・・・・何の迷いもありません!
今までずっと目指してきた目標なんですもの・・・・でも・・・でも!」

耐え切れない、と言うようにカインの胸に飛び込む。
二つとも欲しくて、なのに片方は諦めなければならない、夢。
決別なんて出来やしない。
夢を・・・・諦める事も。
自分で掴み取れない・・・・弱むしな自分がたまらなく嫌だ。

「ア・・・・・アシャン・・・・・?」
「カイン様が好きなんです・・・・諦めたくて・・・諦めきれなくて・・・。
まだ、迷ってるんです。二つに一つしか無いのに・・・・・!」
「・・・・・・・・・。」
髪を撫でる事も何もせず抱き留められているだけなのに。
妙に落ち着いてきている自分に気付く。
・・・結局ごまかしなんて効かなかった。
「泣かれると・・・・どうしていいかわからなくなる・・・・。
頼むから泣かないでくれ・・・・。」
「・・・カイン様の答えが聞けたら泣くのやめます・・・。」
「・・・好きに決まってる。」
「そうじゃなくて・・・もっと具体的に。」
自分の未来をかけた一言。
人の口から出る言葉で未来を決めようとしている。
「・・・・・・・・聖乙女になるな。
・・・・・これでいいのか?」
「・・・・・・・はい!」

にこやかな微笑みを浮かべて再びカインにきつく抱きつく。
どちらからともなく約束事のように触れた唇。
季節は春。
アシャンティの心の中にもやっと春が訪れようとしていた。



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森生よりひとこと 帝釈天様のHP『GARDEN』で、キリ番惜しいで賞でいただきました。
本当に嬉しいです。(^_^)
改めて、カイン×アシャンっていいなあ、としみじみ思いました。
帝釈天さま、ありがとうございました!




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