新井たちが部屋を出ていった後、再び一人になった高城はふうっと息をついた。 「全くうるさい奴らだ」 口ではそう言いながらも、どこか幸せな気分で。 やはり彼女が来てくれたせいなのだろう。 それだけのことでこんなに幸せになれる自分が可笑しい。 「まるで子供だな」 小さく笑って、布団に潜り込む。 繭にくるまれたような温かさの中で、高城は改めて眠りに落ちようとしていた。 『夢の中でも君に会えるといいけどね・・・』 うとうととまどろみ始めた頃。 「高城! 風邪で寝込んでいるというのは本当か!」 またしても高城は浅い眠りを妨げられる羽目になった。 扉の開く派手な音と同時に聞こえてきたその声は・・・。 「く、草薙さん!」 高城は慌てて身を起こした。 病身に草薙会長の姿はかなりこたえる。 「ど、どうして分かったんです?」 当然の疑問に、草薙は心から心配そうな顔で答えた。 「新井から聞いたのだ」 ・・・新井。 あいつとは病気が治り次第、ゆっくり話をつけよう。 怒りで目がすわる高城にもお構いなしに、草薙はすたすたとベッドに歩み寄った。 自然と逃げ腰になっている高城の額に手を当てる。 草薙は驚きに目を見開き、腕を額の上に振りかざす悲劇のポーズで叫んだ。 「おお! 何ということだ、高城! 熱があるではないか!」 高城はくらり、と目眩を感じつつ、それでも礼儀正しく返事を返した。 「熱があるから寝ているんじゃないですか」 もっともなツッコミに、草薙、頷く。 「うむ。安心しろ、高城。この私が来たからにはもう大丈夫だ」 「は?」 何が大丈夫なんだ。 相変わらずこの人の思考は良く分からない。 帰ってくれるのが一番いいんだが。 迷惑そうな視線を向ける高城の前で、草薙はいきなり上着を脱ぎはじめた。 目が点になる高城。 草薙は確信に満ちた笑顔を見せる。 「熱を下げるには人肌が一番だ! はっはっはっはっはっ!」 「な、何!? 何を考えてるんだ、あんたは!」 「遠慮をするな! この草薙、お前のためならたとえ火の中、水の中、ベッドの中!」 「や、やめろ!!」 とんでもない台詞を口にする草薙が、遂にズボンまで脱ごうとした時。 「か、会長! 何をやっているんですか!?」 扉から飛び込んできた闖入者が草薙を後ろから羽交い締めにする。 「な、何をする! 杉田、離さんか! お前と言う奴はいつもいつもいいところで邪魔をして・・・!」 杉田から逃れようと暴れる草薙。 が、杉田はびくともしなかった。 案外力持ち・・・というより、草薙が弱すぎるのだろう。 「その悪い癖はやめてくださいといつもお願いしているじゃありませんか・・・」 「うるさい! ・・・ん? 高城、どうした? どこへ行くのだ、そんな格好で! よさんか!」 高城は草薙の制止する声も聞かず(当たり前だが)、この隙にとパジャマ姿のままベランダ伝いに外へ飛び出した。 翌日、高城の熱は40度近くまで上がっていたのであった。 おわり。 |