「痴漢?」 学校帰りのあかねを車で迎えに行ったその帰り、友雅は奇妙な事を聞いた。 「うん、友達が朝や帰りの電車の中でここのところ立て続けに遭うらしくて…。 なんだかほおっておけないから私も一緒に付き合う事にしたの… だから、あの、しばらくの間会える時間が減っちゃうの。ごめんなさい。」 「会える時間が減るとは穏やかじゃないね。でも…痴漢…とは、如何言う事をいうのかな?」 「あ、そうか。向うの世界じゃ痴漢と言う事すらできないもんね。 あのね…痴漢っていうのは胸やお尻に同意なく触ったり、見たくもないのに大事な部分を見せびらかしたりしてしまう人の事。」 「へぇ、羨ましい人達がいたもんだね。私もそれにあやかってみたいものだよ。」 「もう、からかわないでください。やられる女の子の方は大変なんだから…それでね。」 あかねと共に現代に来てからというもの友雅はその容姿をみこまれ、また自分の性格にもあっていると言う事からホストを引き受けて人気が出ていたのであかねと会える時間が更に減っていた。 それでも、お互いなんとか時間をやりくりしてはこうしてお互いに会う時間を作り、いろいろな出来事を語り合っている。 早く自分の手元におきたいという気持ちを、「せめて高校を出るまでは…」といったあかねの両親に免じて押さえつつも、友雅はめまぐるしく変わりつつある現在の状態を楽しんでいた。 だが、そのささやかな時間を削り取られる…という出来事は、友雅を少しながらも不快な気持ちにさせなくもないのも、また事実。 「聞いているんですか? 友雅さん。」 「…ああ、聞いているよ。良ければ、その痴漢退治に一緒におともさせてもらえるかな?」 「いいんですか!? あ…でも。」 「構わないよ。私もあかねに会う時間が増えるのは嬉しいのだから。」 こちらの世界に来てからも、やはりあかねを愛しいと思う気持ちに変わりはない。 八葉の勤めを受けた時は、ただこの退屈がまぎれればそれでもいいと感じていた。 だが…、自分の置かれた状況にめげる事無く、ただひたすら前を見つめ、微笑みながら怨霊を封印していたあかねの優しさを見ていると、友雅の心にも暖かいものが涌き出てくる。 ふと、友雅は大きく開いた襟の隙間から自分の鎖骨の間に手をやる。 以前、自分が八葉であった時の証が、ここには埋まっていた。 その時に感じた痛みも今はとても暖かなものに変わっている…。 目の前にいるこの少女。あかねによって…。 「たまには、電車というのも悪くないのだから。」 …立ち止まらなくていい、そのまま私の心を駆けぬけていっておくれ。私の姫君。 車のアクセルを踏みしめながら、友雅は前をみる。 自分と、そして、あかねを乗せた車を走らせながら…。 |