by レイ
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「カ・イ・ン様っ！」 ある休日、アシャンはいつものように、カインの執務室のドアからヒョコッと顔を覗かせた。その様子に、普段はめったに表情の変らないカインも思わず微笑をもらす。 「ああ、よく来たな。」 アシャンは勝手知ったるなんとやら、といった感じでさっさと部屋に入り、自分が持ってきて隅のほうに置いてあったティーセットの方へと歩み寄る。 「今日は読書をなさってるんですね。」 手際よくお茶の用意をしながら、アシャンは彼に問い掛ける。 「ああ、ちょっと調べたい事があってな。」 カインはそう言いながら本を置いて立ち上がり、いつも二人でお茶を飲む小さなテーブルの方に移動する。 「ねえ、カイン様。お願いがあるんですけど・・・」 用意できたお茶とお菓子をお盆に載せ、テーブルに置きながらさりげなくアシャンは切り出す。 「なんだ？」 カインはすっかりくつろいでおり、アシャンの様子には何も気が付いていない。 蒼流聖騎士団長カイン＝ゴートランドと聖乙女候補生アシャンティ＝リィス。この二人はつい最近、紆余曲折を経てやっと想いが通じ合ったばかり。そんな状況だから、いつもは冷静で勘の鋭いカインも、愛しい少女と共に過ごせることで舞い上がっていたのだ。 「カイン様、女装して下さい！」 「グッ！！」 カインは愛しい少女から発せられた思いがけない言葉に、飲んでいたお茶を詰まらせ、激しくむせこむ。 「だ、大丈夫ですか、カイン様！」 「ゲホゲホ・・・な、何を・・・」 「カイン様ってもてるんですよ。」 何の脈絡もない彼女の言葉に、カインの思考は混乱する。 「？？？？？」 「カイン様の傍に私がいる、って事自体がカイン様のファンは気に入らないんです。だからよく言われるんですよ、『最近カイン様とよく会ってるのね、でもカイン様はあなたが聖乙女候補生だから、イヤイヤ付き合って下さってるのよ』って」 そう言ってアシャンは悲しそうに俯いたが、すぐに顔を上げる。 「で、私考えたんです。」 彼女のその顔に、カインは表には出さねどもかなり引いていた。アシャンがそんな顔をしたときは、決まってロクな事がないからだ。 （今度は何を言い出すつもりだ・・・） 「カイン様に女装してもらえば、二人で堂々と出歩いてもファンの方に何も言われないと思うんです」 アシャンの言葉を聞いて、カインは頭がガンガン言い出すのが分かった。 この俺が女装だと？！たとえアシャンの頼みでも、断る、絶対に！！別に出歩かなくても、この部屋にいればアシャンに余計な事を言う奴等にも見られないではないか。 そう決意して口を開きかけたとき。 「カイン様、私の事好きだって言ってくれましたよね。」 「あ、ああ・・・」 「じゃぁ、私のお願い聞いていただけますよね。」 「い、いや、しかし、それとこれとは・・・」 その言葉を聞いて、アシャンの顔がサッと曇る。 「・・・そうですか。そうですよね、いいんです。カイン様は、私がカイン様の事を想っているほど、私の事想っていて下さる訳じゃないんですね・・・」 「・・・」 「私はカイン様のためなら、男装だってなんだってするのに・・・」 （女が男装するのと男が女装するのとでは、全然違うと思うぞっ！） 「やっぱり、カイン様は私が聖乙女候補生だから想いを受け入れてくださったんですね・・・」 「！バカな事を言うな！」 「でも・・・」 ここでアシャンは、うっすらと目に涙を浮かべた。 断固として断ろうと思っていたカインは、アシャンを傷つけないよう言葉を選ぶ。 「いや・・・まあ・・・俺が女装しても、似合わんぞ。」 「あ、大丈夫ですっ。カイン様、きっと似合いますよ。他の聖騎士団長の方にさりげなく聞いてみたら、皆様口を揃えて『きっと似合う』っておっしゃってくださいましたし。」 「・・・」 （あいつら、絶対許さん！面白がって変な事言いやがって・・・） カインは怒りを押さえようとしたが、両方の握りこぶしがプルプルと震えるのを止める事は出来なかったのであった。 結局アシャンにどこまでも甘いカインは、一番愛しい少女の手により女装させられ、街中を彼女と歩く羽目になった。 その後しばらく、王都アルバレアではアシャンと一緒に歩いていたあの美女は誰だ、と噂になり、赤炎・嵐雷・深緑・燐光の４聖騎士団長達は、怒り狂ったカインにボコボコにされたのであった。 後日。 「いくらアシャンの頼みでも、カイン様が女装するなんてねぇ・・・」 「それだけ、アシャンへのカイン様の想いが深いということですわ。」 「そういう問題じゃないと思うんだけどなぁ。」 アシャンとの賭けに負けたファナがミュイールにこうこぼしたらしい。 「でも美しゅうございましたわ、カイン様。ああいう方のために『くーるびゅーてぃー』と言う言葉があるのでしょうね。」 「ま、ね。それは認めるわ。あれで仏頂面をしてなかったら、無敵なんだけどね。」 ・・・哀れなり、カイン＝ゴートランド。負けるな、きっと明るい未来が待ってるぞ(笑)。 あとがき すみませんっ。ギャグになってしまいました。こんなものでよろしければお納めくださいっ。カイン様別人・・・。トホホ。 |