プレゼント

う〜ん。
青葉はちょっとぱかり考えこんでいた。
御門は忙しい。忙しい人なので用事がないと、なんとなく会いに行きにくい。でも、やっぱり会いたいし。う〜む。
新年早々、一年間煩わされてきた事件も解決しちゃったし。それはそれで肩の荷が下りたってところなんではあるが、積極的に呼び出す理由がなくなっちゃってとっても残念。如月なら店に行けば暇げに店番しているし。歌舞伎町を歩けば、不良ギャンブラーが流しで博打を打ってたりするしなのだけれど、陰陽師には、なかなか街中でばったり、というわけにはいかないし。
会いたいんだけど、それだけの理由で呼び出したりって悪いなって思う。
何かもっと、理由があるといいんだけどなあ。
ベッドの上に座り込んで、枕を抱いて青葉は、む〜と考えこんでいる。そのまま、ぼすん、とベッドに倒れこむ。そりゃ、毎日メールは送っているし、返事もくれるし。でも、やっぱり、声が聞きたかったり、触れたかったり。
そこで、はた、と気がつく。
そういえば、御門くんって、誕生日、いつなんだろう。
出会ったのが、去年の冬の初めくらい。それから今まで、そんな話をしたことなかった。
だってねえ・・・そゆ話題を振る機会なんてなかったしさ。
『ね、御門くんの誕生日っていつ?』
なあんてこと、本人に聞けると思う? 思わないよねえ〜、あの、御門くんにだよ?
誕生日が近かったら、プレゼントあげるっていう理由で会ってもいいよね、うん、これはちゃんとした理由だと思う。
そう青葉は考えて、まだ確かめてもいないのに、うんうん、と内心で盛り上がる。
だって、ほら、御門くんってどことなく、冬生まれって気がしない?
冬の深々と降り積もる、夜の雪みたいな雰囲気がしないかな。
うんうん、と自分の考えに納得する。そうそう、誕生日のプレゼント、これでいこう!
えへへ〜と満足そうに笑うと青葉は、プレゼント、何がいいかな〜と考えてわくわくする。もちろん、御門に会う理由ができたってことも嬉しいんだけど、御門が何をもらえば嬉しいだろうなんて考えるのも楽しいし、それを渡したときの御門の反応を想像するのも、とっても楽しい。
如月くんのお店だったら、なんとなくいいものありそうだし、明日でも寄ってみようかな
そんなことを能天気に考えて暢気に眠りにつく青葉だった。


明くる日。
朝からずいぶんとご機嫌な青葉に、葵も小蒔もなんとなく不思議そうな顔をしている。
「昨日までは随分と様子が違うよねえ? そう思わない? 葵」
「ええ・・・御門くんに会えたのかしら?」
「そうかなあ・・・でも、その割には何にも言わないよ?」
たいがいが、御門と会った明くる日なんてことになると、どこへ行ったの、御門がどうカッコよかったの、と延々と話を聞かされる羽目になっている二人である。傍迷惑だから、そういうことは止めなさい、と誰か止めてやってほしいのだが、葵も小蒔も友達思いでそんなこと言うわけがないし、半分くらいは面白がって聞いているので、青葉が御門といつ会ったか、なんてことについては随分詳しく知っていたりする。
「ひーちゃん、一緒に帰ろっか。ラーメンでも食べて帰る?」
小蒔が声をかけると、青葉はそれはそれは弾んだ声で答えた。
「ごっめ〜ん、今日はプレゼントを見に行くんだ!」
「「プレゼント?」」
葵と小蒔の声が重なる。えへへ〜と照れたような笑いを浮かべた青葉は、うん、そう、プレゼント、とだけ答えると、いそいそと鞄に教科書を詰め込んで「それじゃまた明日〜♪」と教室を出ていった。
「プレゼントって・・・・誰に?」
「そりゃ、やっぱり、御門くんに、じゃないのかしら?」
「・・・・なんで???」
ちょっと?顔な二人は、しばらく考えこんでいたが、所詮考えたところでわからないのだった。
一方、青葉は。
如月骨董品店への道をしごくご機嫌で歩いていた。あのお店は置いてあるものは結構なお値段がするけれど、まあ、値段なんてあってないようなお店だし、如月に頼めば(というか値切れば)安くしてもらえるだろうし。なんたって、御門好みの品がいろいろありそうなところが嬉しいお店だ。自然と足も速くなってしまう青葉に、背後から聞き慣れた声がかかった。
「おや、先生、珍しいな、一人でどこへ行くんだい?」
その声に、青葉は振り向く。道ばたのファーストフード店の外でさして美味しくもなさげにハンバーガーを口にしている歌舞伎町のギャンブラーが手招きをしていた。
「村雨くん! 元気? 珍しいね、どしたの、こんなとこで」
「それはこっちのセリフだぜ、先生。」
「あ、あたし? あたしは如月君のお店に行く途中」
「なんだ、似たようなもんだな、俺は如月と麻雀の約束があって行く途中だ」
「そなの? じゃ、一緒に行こうか」
ここまで来るのに腹が減って仕方ねえや、と呟いた村雨は残りのハンバーガーを口に押し込むとゴミを店の前のゴミ入れに投げ入れ、青葉の横に立って歩き出した。
「先生、俺に聞きたいことあるんじゃないのかい?」
ニヤリと笑ってそういう村雨に、青葉はちょっとばかり頬を赤くするが、なんとなく図星を言い当てられて面白くない気もして黙り込む。それを見た村雨は笑い出すと、青葉が尋ねるより先に聞きたかったことを言ってくれた。
「御門は元気にしてるぜ、まあ、連絡はとりあってるんだろうし、それっくらいのことは知ってるだろうが。
 最近、ちゃんと会えてんのか?」
う〜ん、と青葉は唸ると
「ここんとこ、あんまし、会ってないんダケド・・・プレゼントでももっていこっかな〜とか思って
 如月くんちに行くのは、それを見にいこうかなっていうことでね・・・」
と、もごもご答える。
「プレゼントねえ・・・しかし、理由もないんじゃ渡しづらいだろうがよ、先生」
村雨が、プレゼント、なんていう女の子らしい発想に苦笑してそう言う。青葉は、そこではた、と気づいて立ち止まると、村雨に問うた。
「・・・ね、あのね、村雨くん、御門くんの誕生日、知ってる?」
「御門の誕生日ぃ〜?」
青葉が村雨の口から衝撃(?)の事実を聞くのはそのすぐ後のことだった。


その夜。
青葉はベッドに沈み込んでしまっていた。じたばたと布団に手足を打ち付ける。
9月! 9月だって〜!! 御門くんの誕生日、9月なんだって。まだまだ先じゃん〜
はあ〜、と溜息をついて顔をあげる。そういえば、物静かそうだけど、内心はけっこう激しいところとかありそうだし。O型の血液型ってことは、確かに言いにくいこともずばずば言うとこあるしさ・・・・。そっか〜〜〜、と溜息つきつつも、納得したりして。そりゃまあ、御門のことがまた一つわかったっていうのは、嬉しいんだけど、なんとなくプレゼント渡そうなんて、勝手に盛り上がっていた分、落ち込みも深かったり。
御門くんと会う理由がないよう・・・
む〜・・・と考えこんでしまう。
「あ〜ん!! 御門くんに会いたい、会いたい、会いたいよう〜!!!」
思わず叫んでしまう青葉である。そこへ、玄関のチャイムが鳴った。がば、と跳ね起きた青葉は玄関へ向かう。なんだろ、集金かな、実家から差し入れかな、などと思いつつ玄関の扉を開けると。
「会いたいなら、会いに来ればよいでしょう」
いきなり、扉を開けたとたんにそう言われて青葉は目が点になってしまった。いや、目の前に立っている人が本物かしら、なんてこと一瞬考えてしまったりもしたのだけれど。いつもの癖の、扇を口元に当てたその姿は、まぎれもなく御門で。
「・・・え? どして? 御門くん・・・」
「外まで聞こえていましたよ、叫び声が。まったく、はしたない・・・」
いや、そういうことじゃなくて、なんでここにいるかって聞きたかったんだけど。
「村雨が大変、面白いことを教えてくれましてね。
 まだ半年以上も先の誕生日のプレゼントを今から買いにいこうとしている人がいるらしい、と」
あ〜・・・と、青葉の視線が宙を泳ぐ。黙っててねって言ったのに・・・・
「たまには会いにいけ、と言われましてね。忙しいのですが時間を割いて会いにきました」
さりげにイヤミっぽいところも御門らしいんだけど、青葉はそんなことちっとも気づかずに、御門くんって優しい、とか思っていたりする。
「うう、ごめんね・・・御門くん、忙しい人だから、めったな理由がないと会いたいっていうの、迷惑かなって思ってさ・・・我慢してたんだけど・・・」
青葉がそう言うと、御門は溜息をついた。
「・・・・では、一つだけ言っておきますが。
 会いたい、というのも、立派に会う理由になりうると思いますよ。」
「ほんと?」
じゃあ、これからは会いたいときに、会いたいって言っていいのかな、と青葉の顔が輝く。しかし、それへは御門が釘をさすように付け加えた。
「ただし、会えるかどうか、はそのときの状況によりますが。
 言っておきますが、私には恋愛よりも優先させるべき使命がありますので」
うんうん、それはよくわかってるからいいの、会いたいって言ってもいいんだって、それだけで嬉しいの。だから、青葉には御門がさらに小さな声で「まあ、なるべく時間を作るように努力はしますが」と付け加えたのは聞こえなかった。
「・・・ありがと、来てくれて。えっと・・・お茶、飲むくらいの時間はある?」
「・・・それくらいの時間ならいいでしょう」
「それじゃ、あがって!」
青葉は嬉しそうに御門の手を引いて部屋に上がらせる。会いたい気持ちを、御門がちゃんと受け止めてくれたから、それが嬉しかった。会いたいときに、会いたいって言ってもいい、と言ってくれたから。
「・・・青葉、あなたの誕生日は、そういえば、いつなんですか?」
自分だって、御門に自分の誕生日とか教えていなかったと気づいたのは今更で。そんなことが妙におかしくて青葉は笑い出した。
「あはは、そういや、そゆこと、ちっとも話してなかったもんね。あたしは、8月産まれ。
 御門くんと一ヶ月ちょっと違うくらいだよ」
苦笑しながら御門が言う。
「では、私も青葉も、プレゼントを考える時間は、まだまだ十分にあるということですね」
それを聞いて青葉はちょっと驚く。そうか、そういうことなんだ。これから、まだまだず〜っと、御門に何をあげよっかな、とか、何がいいかな、とか考えられるのだ。毎日、あの、プレゼントを考えるわくわくした気分でいてもいいのだ。そう思うと、急になんだか得した気分になって。
「・・・御門くんって、すごい。 なんだか、急に嬉しくなってきちゃった」
何が欲しい? なんて聞かない。だって、それじゃああげる楽しみももらう楽しみもないじゃない? これからも、いろいろ少しずつ、御門のことがわかっていくんだろうし、新しく発見した御門のあれやこれやから、何をあげたいか、なんてのが変わっていくかもしれないし。それもまた楽しみだったりするし。
「・・・あなたは、本当に、単純なんですねえ」
ご機嫌な様子の青葉に、御門が半ば呆れたような声で言う。あ、もしかして、呆れちゃった? と心配そうな顔になる青葉に、御門は苦笑しながら、付け加えた。
「そういうところが、また、好ましいのではありますけれど」
結局のところ、会いたいと思っているのはお互いさまなわけで。そう思ったら、そう言ったもんが勝ちだったりするんである。
結局、お茶の一杯でも飲んだら帰る、などと言っていた御門が帰ったのは・・・・・・・帰ったのは、いつかというのは、とりあえず、想像にお任せしておくことにする(笑)





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