「青葉」 ・・・・・・ 「青葉」 何度か名前を呼ばれて、青葉はやっと目を覚ました。 眠そうに目を擦りつつ、布団の上に起き上がり、ぼ〜っとした顔で「ん〜・・」と自分の名前を呼んだ主を見返す。 「・・・おはよ・・御門くん・・」 むにゃむにゃ、と呟くようにそう言うと、またまた布団に抱きついて倒れこむ。その頭を軽く御門がはたいた。 「起きなさい。時間ですよ」 「む〜・・・だって・・・」 まだ、目覚ましが鳴ってない、と青葉が言おうとしたそのとき、枕もとの目覚ましがチリチリと金属質なベルを鳴らした。 観念した青葉は寝惚けた顔でやっと布団の上に起き上がる。御門はといえば、もうすっかり身支度まで終えている。 「・・・御門くんってどうしてそんな朝早く起きれるの〜」 めそめそと言う青葉に、御門はさも当然と言わんばかりに青葉を見下ろして言う。 「起きねばならない時間を心しておけば、ちゃんと起きられるものです。 あなたは覚悟が足りない」 朝起きるのが苦手というだけで、そうまで言われるとはちょっと情けない、と青葉はがっくりしつつも、ベッドサイドの服を取り上げる。 御門はというと、すっかり勝手知ったるという感じになってしまった青葉のマンションの台所でコーヒーメーカーのスイッチを入れていた。あの御門にコーヒーを入れさせるとは、と、他の仲間が知れば驚愕するだろうが、青葉にしてみても御門にしてみても、結構それは自然の成り行きのうちにそういうことになっていたのだった。つまり、青葉は朝があまり得意ではないし、御門は目覚ましが鳴るより先にもちろん目覚める性質だし、青葉の目が覚めるのを御門が待っていたら、大変効率が悪くて仕方がない。そういうわけで、御門が泊まったあくる日は、コーヒーメーカーにスイッチを入れるのは御門の役割ということにいつのまにかなってしまっていたのだった。 「御門くん、出かけるの、何時?」 下着を着けながら青葉が台所の御門に尋ねる。たいがいが、御門の方が出るのが早い。それは御門の方が忙しいわけだし、泊まっていくのも多少無理してのことだし、仕方のないことであるけれども。一人だけならもう少しゆっくり朝寝が出来る青葉だったが、やっぱり二人で迎える朝は一人の朝より好きだった。ので、多少の眠気はこの際、我慢している。 「あと1時間30分ほどで芙蓉が迎えに来ます。 朝食を食べる時間くらいは十分ありますよ」 台所から戻って青葉の部屋に顔を出した御門がそう答える。青葉が、ん〜、と答えるのを何を思ったか、何やら考えるような顔でじ〜っと見つめている。いまだ下着姿の青葉は、御門に凝視されて、なになに? と訝しげにその顔を見返した。しばらくじ〜っと青葉を見つめていた御門は、やがて、ぽつり、とこう言った。 「・・・青葉、少し、太りましたか?」 ・・・・・・・シ〜ン 青葉はその言葉を聞いて、そのまま固まってしまった。確かに、確かにこのところ、なんだかおなかが空いていろいろ食べていたかもしれない。京一たちに誘われてラーメン食べて帰った後でちゃんと夕食も一人前食べてしまったのは悪かったかもしれない。薄々、自分でもちょっとそうじゃないかな、とか思ったりもしていたんだけれど。ずばりとそう言われると、かなりショック。 「・・・そ、そう思う?? お肉、ついちゃった??」 ついつい気になるウエストまわりの肉を手でつまんでみたりする。そうでなくとも、スタイルにはさして自信があるわけじゃないのである。この上、ウエストがなくなったりした日には、泣けるどころではない。 「そうですね・・・ なんというか、昨日の抱きごこちが・・・」 さらっと御門が問題発言を放つが、青葉はそんなことは聞こえてはいない。その様子があまりにもショックが強かったように見えたのだろう、御門は不思議そうに青葉に向かって言う。 「多少肉がついたところで、運動能力や健康に不都合がないなら、 さして問題があるわけではないでしょう。 そんな顔をするほどのことですか?」 事実を述べただけで、深い意味はなかったらしい御門は青葉のショックがどうも理解できないらしい。青葉はため息をつくと 「そんなこと言ってもさ・・・太るのって簡単なんだけど痩せるのって難しいんだよ〜 食事を抜くなんてもってのほかだし、運動するのが一番だけどさ 今以上の運動量ってなかなか時間も取れないしさ、 それにね、太るときって肉がついてほしくないところから太るのに 痩せるときって、肉が落ちてほしくないところから落ちてくんだから〜」 と切々と語る。それを聞いていた御門はつかつか、と青葉に近づいてくると青葉の二の腕を指先でつまむ。 「別段、太りすぎというわけでもなく、問題もないと思いますがね。 それでもまだ気になりますか?」 さすがに自分が言った一言で青葉がここまで落ち込むとは思っていなかっただろう御門が、フォローのつもりでそう言うが、青葉はあいかわらず、ため息ばかり。 台所からはコーヒーの薫りが漂ってくるが、コーヒーもいらない、とか言い出しそうなくらいである。御門は小さくため息をつくと、 「・・・わかりました」 と言うとベッドに座り込んだ青葉の隣に腰を下ろす。 何が? と言いたげに顔を上げた青葉の唇を、御門の唇が塞ぐ。 「!! な、なになに??」 驚いた青葉が顔を離すと、それを逃さぬように御門の腕が青葉の身体を抱きすくめる。 「痩せるには、運動がいいわけですね? では、私が責任もってあなたの運動に付き合いましょう」 そう言うと、青葉の身体をベッドに沈ませる。 「ち、ちょっと・・・み、御門くん・・!!」 運動って、運動ってそういうの運動って言わないんじゃない??? 青葉が慌ててそう言い、肩を押し返そうとするが、意外に力のある御門に押さえ込まれて動けない。 「ほ、ほら、出かけなくちゃいけないんだし、芙蓉が迎えにくるんだし・・・ あと1時間半くらいしか時間ないんでしょ???」 そうまくしたてる青葉に向かって、御門が余裕ありありのちょっと意地悪そうな笑顔で答えた。 「ええ、朝食をとる時間を考えても、十分一汗かけると思いますよ?」 |