その酒場は、まだ昼間ということもあって、中にいる客もまばらだった。入り口のドアを明けると、鈴がチリンチリンと軽やかな音を立てるようになっている。もちろん、イーリスは姿を隠しているから、その鈴を鳴らすこともできなくて、鳴らしてみたくてうずうずしていたのだった。しかしながら、何もないのに鈴がなるっていうのもおかしいから、今度は絶対に人の姿で来てみよう、とか思っている。今回は、なんていったって、勇者と会うわけなので、天使の姿をしていなくてはならない。 薄暗い店の奥のカウンターで、なかなかの美人が酔いつぶれていた。 『ほ〜、べっぴんさんやがね〜。けんど、そねいなべっぴんさんが、こねいに飲んで・・・なんぞ悲しいことでもあったんかいの〜』 ついつい、顔をのぞき込んでしまう。眠っているとばかり思っていた、その女性がぱちっと目を開けるのと同時だった。 イーリスは、瞬間、反射的に、にかっ!!!と笑う。いや、普通の人間には見えないってことは百も承知なのだが、気配だけは感じる人間とかもいて、姿は見えてないのに目があったりすることもあったりして、とりあえず、友好的な態度を示すべく、笑ってみせたりするのだ。 で、もって、今回も、美人なお姉さんと目があってにかっ!と笑ったイーリスであったのだが。 「何よ、あんた。天使なわけ?」 初めて、一目見ただけで天使と理解してくれる人間に会って、イーリスは感動していた。 「おお!!! 姐さん、わしが天使じゃとわかるかよ! おお〜!!おんしがナ−サディア姐さんじゃね? さすが、勇者やがよ〜、やはし、天使がわかるかよ〜」 イーリスは上機嫌で、ナーサディアの頭上を飛び回った。天井の明かりにぶつかりそうになるが、それは上手く避けている。 「勇者? 昔のことよ。今はカンケーないわ」 けだるそうにナーサディアが応える。イーリスは、その物憂気な様子にちょっとなにやらおかしな空気を感じて、降りてくるとナーサディアに言った。 「姐さん、わしと一緒に、世界を救わんかいね? この世界は滅びに向かっちょる! おんしは、それを気付いちょるじゃろう? 心痛めちょるんと違うかよ? 大丈夫、この世界は救われるっちゃ。 勇者として、存分に闘うこともできるがよ〜」 しかし、まったく興味なさげにナーサディアはイーリスから顔を背けてまたカウンターにつっぷしてしまった。 「なんちゃあ、姐さんよ〜、勇者じゃないんかいね〜? この世界は危ないがよ、一緒にこの世を救うがよ〜!」 イーリスは、またもや、一生懸命、この世界の現在の状況から勇者の役割について、説明した。違う人間相手とはいえ、三回も同じことを説明していれば、いいかげん、途中をはしょってしまいたくなるというものだが、そこはなんとか、我慢して、きちんと一から十まで説明したのだった。が。それを聞いたナーサディアは、あいかわらず、知らんふりでそっぽを向いていた。 「姐さん〜、なんちゃあ、勇者やないんかいね〜」 イーリスは、どうしてみんな、勇者になるのをそんなに渋るんだろう、いいことなのに、もしかして、照れ屋な引っ込み思案さんばっかりなのか、と思いつつ、ナーサディアの顔をのぞき込む。ナーサディアは、思いっきり面倒くさそうに言った。 「・・・天使なんてねえ、信用できないもの。まっぴらごめんなのよ。 勇者なんてなったところで、何がいいことあるっていうワケ?」 イーリスは、その言葉を聞いて、胸を張って答える。 「なんちゃあ〜! わしゃ信用できるがよ! まっこと、正直もんで通っちょるけん! それになあ、勇者ばなったら、自分で自分に誇りが持てるがよ! ええことしよるっちゅうて、気分もええがよ〜!」 「・・・・つまんない理由。自己満足だけじゃないの」 イーリスは、あいかわらずそっぽを向いたままのナーサディアに、腕組みをして考え込む。 「なんちゃあ、姐さんは、勇者ばなりとうないんかいね〜。 勇者じゃったっちゅうんは、間違いじゃったんかいのう。 そんでも、ええけん、姐さんはべっぴんじゃけ、勇者になってくれるとわしゃうれしいんじゃけんどなあ〜」 その台詞を聞いたナーサディアは、半ばあきれた様子でイーリスの顔をまじまじと見つめた。 「・・・べっぴんだから勇者になってほしい??? そんなフザけた理由を言われたの初めてだわ。」 「おお! ほいじゃあ、あれかいね! 勇者になってくれるかいね??? 珍しい理由じゃったら勇者ばなってみようっちゅうて思わんかいね???」 イーリスが、ぱっと顔を明るくしてナーサディアに言うのに、ナーサディアはすぐにまた邪魔くさそうに言うのだった。 「・・・まっぴらごめんって言ったわよ。」 「なんして〜、なんしていかんちゃよ〜」 食い下がるイーリスに、ナーサディアはうるさそうに言った。 「・・・・だって、あなた、私の好みのタイプじゃないわ。 私、あなたと違って落ち着いていて理知的で、物静かなタイプが好みなの。 鏡でも見て出直してくるのね。 女性に会いにくるのに、ヒゲの一つも剃ってないなんて、なってないわ」 イーリスは、ひよひよ・・・とヨーストに続く空を飛んでいた。ナーサディアのスカウトをあきらめたわけではなくて、話が長引きそうだったので、先に事件のほうを片づけてしまおうと思ったのである。 『む〜、やっぱあれじゃね、おなごはでりけーとなんじゃねえ。 こう〜・・・やさしゅうしちゃらんといかんけんねえ』 何かが根本的に違うような気もするが、とりあえずイーリスはヘコみもせずにヨーストに向かっていた。 『しかあし、あれじゃな、次に向かうとこがシー坊のとこっちゅうのも、 わしに運があるっちゅう証拠じゃねえ♪ シー坊は、おなごにやさしゅうするのが得意じゃけんなあ、ちくと技ば教えてもらうけん♪』 シーヴァスの屋敷が見えてくるとイーリスは鼻歌混じりに翼を羽ばたかせた。 シーヴァスは、食事前の様子だった。 「シー坊!」 イーリスの登場に居間でテーブルにつこうかというシーヴァスが振り向く。 「・・・何をしにきた、バカ天使。」 「おお! なんちゃ、今から食事かいね。」 イーリスはというと、任務の依頼にきたくせに厨房から漂ってくるいい匂いに鼻をひくひくさせてうっとりとしていた。 「は〜〜〜。ええ匂いじゃねえ・・・。こりゃうまそうじゃ〜・・・」 なんだか今にもよだれをたらしそうな雰囲気でふがふが言っているイーリスに、シーヴァスはおもしろくもなさそうに言う。 「空腹だというのなら、とっとと帰って食事をするのだな」 イーリスは、そのシーヴァスの言葉に、唇をとがらせる。 「なんちゃあ、そうしたいんは山々じゃけんどなあ。 わし、まだこれから仕事があるけん、帰れんちゃあ!」 その言葉を聞いて、シーヴァスは意地悪そうににやり、と笑った。やっとこの忌々しい天使に少しは意趣返しができるというものだ。 「悪いが、私の分しか食事の用意はしていなくてな。 何か話があるというなら、食事をしながら聞いてやるからなんなりと話すといい」 もちろん、空腹なイーリスにごちそうを食べてるところを見せてやろうというイヤガラセだったりするのだが、イーリスはというと、シーヴァスの言葉に 「シー坊、わしのこと心配してくれるがよ〜、ええ奴じゃねえ、おんしは〜。 ええっちゃよ、わしの事は気にせんでええっちゃ、飯ば食うがよ。 わしゃ、適当になんか探してくるけん」 となんだか知らないが喜んでいる様子。シーヴァスはいささか拍子抜けしてしまって、おもしろくなさそうにため息をついた。 「で、何の用事なんだ、いったい」 仕方なしに言うシーヴァスに、イーリスが言った最初の台詞は。 「シー坊! おなごば口説くっちゃ、どうするがよ?」 それにはシーヴァスも、思わず口に含んだスープを吹き出しそうになった。天使のくせに女性を口説くだと??? 「いやなあ、勇者になってほしいおなごばおるんじゃけんど、うんっちゅうてくれんがよ〜。 なんとか口説いて勇者になってほしいがよ〜」 しみじみと言うイーリスに、そういうことか、と内心シーヴァスが胸をなでおろす。 「一言言っておくと、貴様は礼儀がなっていない。 初めて会う女性であれば、なおさらのこと、不安を与えないように 身だしなみから言葉遣い、仕草にいたるまで気を配るべきだ。 どう考えても、貴様の出で立ちは、女性に会うには落第点だな」 イーリスは神妙な顔をして、ふむふむ・・・とシーヴァスの言葉を聞いている。 「やっぱ、ええこと言うっちゃねえ、シー坊は。 伊達にええしのぼんと違うがよ〜♪ そうとわかれば、早速、姐さんに頼みにいくが〜!」 イーリスはばさばさっと飛び上がる。 「なんだ、そんなくだらないことのためにわざわざ来たのか。 そんなことは私に聞くまでもなく、誰もがそう言うだろうことだぞ」 シーヴァスのため息混じりのその言葉に、はっっ!!!と気づいてイーリスはもう一度地に降りる。 「違ったっちゃ! や〜、悪いのう、シー坊にはもひとつ、ええ話があったんやがよ〜。それ言うの、忘れとったっちゃ〜」 シーヴァスは、いい話という所に不可思議そうな顔をしてイーリスを見る。言葉は話さず、その表情だけで、先を続けろと言っているようだった。 「シー坊、初仕事じゃよ! おんしにぴったりの仕事じゃあ。山あいの街道になあ、おなごばさらいよる盗賊が出没しよるが。 おんしに退治してもらいたいがよ〜」 すると、シーヴァスは、不機嫌そうに顔をしかめた。 「なんだって? 初任務? 貴様が依頼を持ってくることも気に入らないというのに、 持ってきた仕事がそんなくだらない、私の手をまぎらわす必要もないような そんな仕事だと言うのか?」 「なんちゃあ、シー坊、かよわいおなごがようけい、その盗賊に苦しめられちょるがよ。 おんしは、おなごの困っちょるんは見すごせん男じゃろが〜」 そう言われると、少し弱いシーヴァスではある。女性の困っているところを見すごせない、それは本当のことだからだ。しかし、こんなバカ天使の思惑に乗るというのも、大変に不愉快ではあるのだが。 「シー坊よ〜。おんしがやってくれんと、わし、困るがよ〜。 早いとこ、ちゃっちゃと片付けてしまうがよ〜!」 イーリスは、シーヴァスの頭上をぐるぐると飛びながら、本当に困ったような声で頼み込む。それは、シーヴァスには少し、いい気分に思えた。この傍若無人な天使も少しは困ることがあるらしい。 「まあ、貴様がどうしても、とそこまで言うのなら、考えてみないでもないがな」 シーヴァスは、なぜか得意げにそう言った。イーリスはそれを聞いて、満面の笑みを浮かべると、地面に降りてくる。 「シー坊! やってくれるかいよ〜! やあ、やっぱし、わしの人選は確かじゃねえ〜♪ もう、わしの人を観る目っちゅうんは、間違いないって気がするっちゃ〜♪」 シーヴァスは、甘い顔を見せるのが早すぎたとかなり後悔する。どうして自分が任務を引き受けるのが、バカ天使の人を観る目と関係あるのだ。この、自分に対する絶対的な自信はどこから来るのだ。目眩がする。 「シー坊、そうと決まれば、早速、行くがよ〜!!」 しかし、そんなシーヴァスにはおかまいなく、イーリスはシーヴァスの袖を掴むとばさばさと翼をはばたかせた。 「ちょ!ちょっとまて! 貴様、私を連れて飛ぶつもりか!!!」 うっそうとした森が広がる。 シーヴァスは、大変不機嫌そうにその森の中に立っていた。闇馬車なる女性をさらう盗賊集団はこのあたりに出没するらしい、とはいうものの。ここまでの道のりは考えたくもないものだった。なんとか、その忌わしい記憶を振払おうと頭を振るシーヴァスに、間の抜けた天使の声がした。 「シー坊〜、こねいなもんでどうやろかいねえ〜」 その声に、振り向いたシーヴァスは、あぜんとして言葉もなかった。 ほっそりとした身体に、質素なドレス。しかし。。。その如何ともしがたいガニ股とがしっ!とスカートの裾をわしづかみにした手、にかっ!!と大口を開けた笑い方は、バカ天使にほかならない。。。 「きききき・・・・き、貴様、それは何の真似だ!!!」 「なんじゃ〜。やはし、おなごが狙われるっちゅうがよ〜。わし、おとりになろうかなっちゅうて。 ほれ、天使っちゃあ、実体化するとじゃなあ、どねいにも化けることができるんじゃ〜。見てみるかよ〜???」 得意げに言うイーリスは、シーヴァスに向かってスカートをひらひらと翻してみる。シーヴァスは目を覆った。 「やめろ!! いいか! 貴様のその姿は女性に対する冒涜だ! ガニ股はやめろ! スカートの裾をまくるな! バカみたいに大口を開けて笑うんじゃない! どんなに可憐そうな姿をしても、中身が貴様だと思うだけで身震いがする! 囮などどうでもいいから、とっとと元の姿に戻れ! でないと、私は帰るぞ!!」 イーリスは、せっかくいいアイディアだと思ったのに〜とちょっと残念そうな顔をした。ほいじゃ、仕方ないかねえ、と元の姿に戻ろうとしたそのとき、空気を裂いて女性の悲鳴が響いた。 「!!」 シーヴァスが身構えて走り出すより早く、イーリスはその姿のまま、大股でスカートをまくりあげて走り出す。その後ろを追いかけながら、シーヴァスはなおも叫ぶ。 「だから! その姿で走り回るのはやめろ!!!!」 そう言われると、走るよりは飛んだ方が早いと気づいたイーリスは、翼を表して空に舞い上がる。 「か〜!! やっぱ、シー坊、ええこと言うっちゃねえ♪ そりゃあ、慣れんすかーとで走り回るよりも、飛ぶ方が早いがよ〜!」 違う、そういうことを言ってるんじゃない、とシーヴァスは言いたいところだが、とにかく悲鳴の聞こえた方へと先を急ぐ。駆けつけたときには、若い娘が今にも盗賊どもに馬車に押し込められようとしているところだった。 「やめろ!」 シーヴァスは、盗賊どもの間に躍り込むと、娘を助け出す。 「けがはありませんか、お嬢さん」 そっと自分の背後にかばうと、身構えて彼を取り囲もうとしている盗賊どもに向かって向き直った。 そして、不機嫌を通り越したような顔を声で彼らに告げる。 「いいか、貴様らがこんな場所でつまらない悪事を企んだりしたからだな、 私は今日、不愉快な目にあって、不愉快なものを見て、不愉快な思いをしなくてはならなかったんだ! どれほど不愉快だったか、貴様らにもわからせてやろうか!!!」 彼の不愉快さ加減は、盗賊どもを片づけるのにさして手間がかからなかったくらいピークに達していたのであった。 しかし、その原因となるイーリスは、上空からのんきにシーヴァスの戦いぶりを眺めて大いに感心していたのであった。 ナーサディアは、舞台に立って踊っていた。 舞台に立っている間は、何もかもを忘れて熱中することができる。いやなことも。すべて。舞台から客を見下ろす。自分に客の視線が集まっているのがわかる。 こうやって、舞台から観客を見下ろすのが好きだった。もしかしたら、その中に探している誰かの姿を見つけることがあるかもしれない。そんな事を思うこともあったから。しかし、その日、ナーサディアが観客の中に見つけたのは。 『!!!』 まるでサーカスを初めてみた子供のように、目をきらきらさせて、口を閉じるのを忘れたように、にかっ!!!と笑ったまま、わくわくとしたような笑顔で、一心に拍手をばしばしと叩いていたのは。 ナーサディアは、音楽が終わり、舞台の合間の時間になると、慌ててその男のところへと飛んでいく。なんで、人間の格好なんかしてるの??? 呆れるを通り越して、腹立たしさが込み上げる。 ナーサディアがこちらへ来るのがわかって、そりゃもう嬉しそうな顔をしている人間の格好をした天使の耳をナーサディアはひっつかむと、人気のない楽屋へとひきずっていった。 「ちょっと! あんた、何のつもりなのよ」 ナーサディアが、声を荒げる。人間の姿になった天使・・・イーリスはまだ口を開けたままだったが、がしっっ!!とナーサディアの手をとるとぶんぶんと上下に振った。 「すごか!! すごかねえ!! わしゃ、まっこと、気に入ったがよ! ええ踊りっちゃねえ〜!! 魂が揺すぶられるようじゃ〜!!!」 ナーサディアの身体までがくがくがくっと揺すられるように、思いっきり手を振り回していたイーリスだが、突然その手を離すと、 「特にこの、ふ〜んふんふんふ〜ふ〜んふん♪♪のところがええねえ!!」 と鼻歌混じりに、ナーサディアの踊りの真似をしてみせた。もちろん、その踊りっぷりときたら、ナーサディアの踊りとは似ても似つかぬもので、かくかくかく、くいっくいっくいっという擬音がぴったりな、なんとも全く別なものとなりはてていたのだが。しかし、それに合わせて(?)ふんふんふん♪とイーリスが歌う鼻歌で、彼がどのあたりの事を言っているのかは理解したナーサディアは、つい 「誰がいつ、そんなふうに踊ったっていうのよ。 違うでしょう、こうじゃないの!」 と正しい踊りを披露してしまったのだった。途端に、イーリスがまたそれを見て 「こうかいのう〜!!」 と、かくかくかくっっ♪と踊る。はっと我にかえったナーサディアは、頭を抱えてしまったのだった。違う、そうじゃなくて。 「姐さん、どうかいね〜、これでええんかいねえ♪」 お気に入りのところを相変わらずかくかくかくっ♪と踊ってみせているイーリスに、ナーサディアはもはや、怒りもどこかへ行ってしまっていた。 「・・・・あんた、何をしに来たのよ。 まさか、あたしの踊りを見にきたわけじゃないでしょうが」 どうして、本人も忘れているような目的をこちらが思いださせてやらなくてはいけないんだろう??? 「はっっっっ!! そうじゃった〜。 なあ、姐さん! 勇者の件、考えてくれたかよ〜。」 途端に、がしっ!とまたナーサディアの手を掴んでぶんぶんと振る。 「姐さんの踊りは素晴らしかねえ! わしゃ、感動したちゃよ。 勇者としての魂の叫びが感じられるがよ! その叫びを、勇者としての任務にぶつけるっちゃ!」 何が魂の叫びが感じられる踊りなんだか、さっぱりナーサディアにはわからなかったが、何にしても、この目の前の天使ときたら、本当に本気でナーサディアの踊りに感動したらしかったのだった。ナーサディアは苦笑する。どう考えても、天使にしては違い過ぎる。月とスッポンとはこのことだ。こんな天使も世の中にはいるものだろうか。 「・・・・・仕方ないわねえ。」 もしかしたら、勇者としての任務の間に、探す男と出会うこともあるかもしれない。 「おお!!! 姐さん、勇者ば引き受けてくれるかよ!」 「でもま、あんまり期待しないでよ?」 かくして、天使イーリスの三人目の勇者が決定したのであった。 「フロリン、こうじゃ〜!」 かくかくかく! くいっくいっくいっ♪ 「こうですかぁ〜???天使さま〜」 くいっくいっくいっ♪ 「ふ〜んふんふん♪」 それからしばらくの間、ペテル宮では、イーリスとフロリンダがナーサディアの踊りを真似た姿が見られたのであった。もちろん、その傍らには頭を押さえて頭痛に耐えるリリィの姿もあったわけであるが。 (続く) |