着ぐるみ版 ウサギとカメ








とある天気のよい春の日
小屋の前の小川のほとりでとあるものを磨いていたイーリスの元へフレアがやってきました。
「イーリス、こんにちわ!
ほら、ウサギさんの着ぐるみできたんだよ、見て見て♪」
見るとフレアは、ほんのり桜色のふわふわのウサギ耳と、ウサギしっぽにうさぎ手袋、お揃いふわふわワンピースといういでたちです。イーリスはその姿を見て、にっこり笑いました。
「おお、おお、かわゆいねえ、よう似合うておるがよ〜」
目を細めて嬉しそうです。そういわれたフレアもくるりと回って見せて、嬉しそうに笑いました。それから、なにやら磨いて いるイーリスの手元を覗き込んで不思議そうにいいます。
「イーリス、それはなあに?」
すると、イーリスはちょっと自慢げに笑いながらそれを持ち上 げてフレアの目の前に差し出しました。
「にゃはは、これな、これは、カメさんの甲羅なのじゃよ〜。
 これを背負えばカメさんの出来上がりなのじゃ♪」
「あ、イーリスの着ぐるみ、カメさんなんだね、すごいね、作ったんだね」
フレアはその甲羅をコンコン、と手で叩いてみます。本当の甲 羅みたく硬くてしっかりしています。
「木を継ぎ合わせて〜削って作ったんじゃよ〜力作なのじゃ♪」
「う〜ん、イーリス、こういうの器用だものね、背負ってみて、背負ってみて♪」
楽しそうにフレアが言うので、イーリスはちょっと照れたみたいに笑って、出来立ての甲羅を背負って みました。大きなイーリスの背中に背負われると、甲羅もちょっと小さく見えます。
フレアは楽しそうにイーリスの周りをぐるぐる回りました。前から横から後ろから、カメさんイーリスを眺めて楽しそうに跳ねています。ホントにウサギさんのようだなあ、とカメさんイーリスは思って、にこにこ笑います。
「あ、ねえねえ、イーリス、山裾の泉のほとりにね、珍しい花が咲いているって教えてもらったの、せっかくだから見にいこうよ♪
 お天気もいいし、楽しいよ♪」
フレアが楽しそうにそう言うのに、イーリスはにこにこして頷きました。珍しい花が咲いているのをもちろん、カメさんイーリスも知っていたので、ウサギさんフレアを連れて行ってあげ たいなあと思っていたからです。
「おお、ええねえ、ええねえ、楽しいがよねえ、
 今から行ったら、夕方までには戻ってこれるき、ちょうどええんと違うかねえ」
すると、フレアは何か思いついたように手を打って、イーリスにいいました。
「あっ、ねえねえ、私がウサギさんで、イーリスがカメさんだから、
 ウサギとカメみたいに競争しない?
どっちが先に、その山裾の泉につくか、競争しようよ、そうしよう♪」
そう言うと、ぴょんぴょん跳ねるように道を駈けます。
「イーリス、大きいからハンデつけてね、カメさんだから、ゆっくりきてね、
500くらいまで数字を数えてから来てね。
先に着いた方が、ええと、ごはん作ってもらうの♪」
言うなり、ウサギさんフレアは可愛い耳を揺らしながら、跳ねるように道を駈けていきました。それをカメさんイーリスはにこにこしながら見送って、それから、数字を数え始めました。
ちゃんと500まで数えるつもりです。


カメさんイーリスが数字を数えているころ、ウサギさんフレアは弾むような足取りで道を進んでいました。お天気もいいし、とっても楽しいです。思わず鼻歌を口ずさんでしまいます。
「おや、フレア、何かお急ぎのご用事かな?」
途中で出会った斑マングースのハナちゃんがそう声をかけてきます。ウサギさんフレアは振り向いて楽しそうに答えます。
「うん、これから山裾の泉に花を見に行くの。カメさんイーリスと競争なんだよ♪」
「おや、それは楽しそうじゃこと。
 山裾の泉の花の噂は身共も聞いておるよ、なんとも綺麗なのじゃそうな
お気をつけてゆかれるとよい」
にっこり手を振るハナちゃんに、ウサギさんフレアも手を振りかえして先を急ぎます。だって、競争なんですからね。
そのころ、カメさんイーリスは、やっと数字を数え終わって、そろそろ歩きはじめました。でも、いつもよりゆっくり歩いています。ウサギさんフレアが、嬉しそうに跳ねていたのを思い出して、ウサギさんフレアに競争に勝たせてあげたいなあ、と思ったからです。たぶん、山裾の泉に先についたウサギさんフレアは、後から来るカメさんイーリスを、やっぱりぴょんぴょん跳ねながら、楽しそうに嬉しそうに、迎えることでしょう。
「遅いよ!」なんていいながら、「イーリスのご飯、一回食べさせてね」なんていいながら、楽しそうに嬉しそうに跳ねるでしょう。それを想像すると、カメさんイーリスは、なんだかちょっと嬉しくなってほのほの胸があったかくなります。だから、カメさんイーリスは、あんまりウサギさんフレアを待たせすぎないようにと思いながらも、追いつかないようにとゆっくりゆっくり歩いていくのでした。


さて、さらに先を行くウサギさんフレアは、元気に跳ねていましたが、なんだかちょっと退屈になってきました。ときどき後ろを振り返りますが、カメさんイーリスの姿は見えません。
「う〜ん、500じゃなくて、300くらいにしておけばよかったかなあ」
だって、カメさんイーリスは、いつも大またでがしがし歩くので、ウサギさんフレアに追いつくのはすぐだと思っていたのです。天気もよくて、景色もよくて、山裾の泉の花は楽しみですが、ウサギさんフレア足取りは、だんだんゆっくりになってきました。一人で歩いているのは、やっぱり退屈です。
「あら、フレアじゃありませんこと?」
そこへ声をかけてきたのは、レッドマングースのアリアです。
この時期、どうも天界は着ぐるみを用意する天使様でごったがえしているようです。アリアは赤いマングースの着ぐるみを着て、なにやら格闘技の練習でもしているようでありました。
「うふふ、勝負をつけるために鍛錬を積んでいるんですの、フレアはどちらへ?」
「私は、山裾の泉の花を見に行くんだけど、カメさんイーリスと競争だよって言って、
先に来たんだけど、ちょっと退屈してきたの、やっぱり、一緒にくればよかったなあって」
言いながら、ウサギさんフレアはやっぱり後ろを振り返ります。このままここでアリアとお話をしてカメさんイーリスを待っていてもいいですが、それではアリアの邪魔になりそうです。どうしようかなあ、とウサギさんフレアが迷っていると、アリアがにっこり笑って言いました。
「山裾の泉ほどではありませんけど、この先、もうちょっと行ったところもお花畑になっていましてよ。
そこでしばらく休憩しながら、カメさんをお待ちになってはいかが?」
それを聞いてウサギさんフレアは、喜んで言いました。
「ホント? ありがとう、アリア、そうするね♪」
「お気をつけて、ウサギさん、悪い狼さんにつかまらないようにね♪」
アリアに大きく手をふって、ウサギさんフレアはまたまた足取りも軽くお花畑を目指して歩きだしました。カメさんを待つ間、花冠を作っていてはどうでしょう。どんなお花が咲いているかも楽しみです。

そのころカメさんイーリスは、やっとまだらマングースの着ぐるみをきたハナちゃんの所を通りかかっていました。
「おや、ウサギさんフレアは、随分先にここを通っておいでじゃよ、
なんとも楽しそうでおいでたよ」
ハナちゃん情報に、これまた嬉しそうに楽しそうに頷きながら、カメさんイーリスは歩いて行きます。ウサギさんフレアは今ごろどのあたりかなあ、と思いながら、ぴょんぴょん跳ねるように楽しそうに歩くウサギさんフレアを想像しながら、カメさんイーリスはにこにこ嬉しそうに歩いていくのでした。


お花畑についたウサギさんフレアは、カメさんが通りかかったらわかるように、あんまり道から離れていない場所で座り込むと、着ぐるみでちょっとモノが掴みにくい手でお花を摘みます。そうして少し苦労しながらも花冠を編み始めます。ときどき顔を上げてカメさんイーリスが通りかかるのを待ちますが、まだその姿は見えません。せっかく花冠を 作り始めたので、できれば花冠が出来上がるまではここにいたいですけれど、あんまりカメさんが遅いとなんだか心配になってきます。ちゃんと、追いかけてきてくれるかな? もしかして、一人にされちゃわないかな? でも、ぶんぶんと頭を振ってそんな考えを振り払います。大丈夫、カメさんイーリスはちゃんと追いかけてきてくれます。わかっています。そういうカメさんなのです。そうして、ウサギさんフレアは花冠を作り始めます。できあがったら、カメさんイーリスの頭にのっけてあげましょう。ちょっと照れくさそうな顔をするカメさんを想像して、ウサギさんフレアはにっこり笑いました。


さて、そのころカメさんイーリスは、レッドマングース着ぐるみのアリアのところを通りかかっていました。
「あら、カメさんですわ、ほんとにカメさんですわ〜」
きゃらきゃらとイーリスの格好を見て爆笑するアリアですが、レッドマングースの着ぐるみだってなかなかです。しかし、笑うだけ笑うと、アリアはちょっと真剣な顔で言いました。
「ウサギさんフレアがなんだか退屈そうでしたわよ。
この先のお花畑で待っていたら、って言いましたけど。
ウサギさん一人で、悪い狼さんに捕まってたら、どうする〜??」
そういったアリアが、「な〜んて、狼さんなんていないわよ ね」と言うより早く、カメさんイーリスの姿は道の遠くになっていました。ちょっと呆れたようにそれを見送るアリアは、
「イーリスったら、その速さはカメさんとしては反則だわ〜」
そう呟くのでした。でも、なんだか微笑ましくなって、うふうふ笑いつつ、今見たことをハナちゃんに教えちゃおうなんて思いました。


カメさんイーリスは大急ぎで走って走って、ウサギさんフレアに追いつこうと走っていました。退屈そうなウサギさんフレアを思うと、早く早くと思います。退屈しているだけならいいですが、寂しくなっていたらどうしよう、そんなことを思って一生懸命走ります。カメさんだけどゆっくりなんてしていられません。
アリアが言っていたお花畑が見えましたが、道から見るとウサギさんフレアらしい姿が見当たりません。
「悪い狼さんに捕まっていたらどうする?」
そんなアリアの言葉が頭をよぎります。そんなことになっていたら、どうしましょう。どきどきして冷や汗が出そうになるのを我慢して、カメさんイーリスは、もう一度よくよくお花畑を見渡します。そうして、お花の間に薄い桜色のウサギさんの耳を見つけて、ほっとしました。つい、その場にへたりこみそうになるのを、押さえて、急くようにウサギさん耳のところへ近づきます。
退屈したのか、待ちくたびれたのか、ウサギさんフレアは、お花の中で寝ていました。ころんと丸くなって寝ていたので、お花の中に埋もれて見えなくなっていたのです。ほっとしたカメさんイーリスは、ウサギさんフレアのとなりに、腰をおろしました。
ウサギさんフレアは、よく眠っています。すやすやと気持ちよさそうです。カメさんイーリスは、起こすのがもったいなくて、その寝顔を眺めながら、ほのほのと風にふかれていました。山裾の泉に咲く花を見なくても、すやすや気持ちよさそうに眠っているウサギさんフレアを見ているだけで、なんだか、それでいいような気がしたからです。見ると、ウサギさんフレアの手にはかわいい花冠が握られていました。
カメさんイーリスはにっこり笑ってそれを手にとると、眠っているウサギさんフレアの頭にかぶせてやりました。


そのまま、どれくらい時間がたったでしょう。そろそろお日様も傾きかけています。すやすや眠っていたウサギさんフレアが、くしゅん、と小さくくしゃみをしました。ちょっと涼しくなってきたようです。カメさんイーリスは慌てて、そろそろ戻らないと、と思いましたが、やっぱり、すやすや眠っているウサギさんフレアを起こしたくありません。おぶって帰ろうかと思いましたが、カメさんの甲羅がこうなると邪魔です。しばらく考えていたカメさんイーリスは、そっとウサギさんフレアを抱き上げました。ちょっと照れくさいですが、おんぶできないのでこの際、これはこれでよいことにします。だって、やっぱり起こしたくないので。
そうして、そっとそっと歩きだしました。ほのほのあったかいものが、カメさんイーリスの腕の中にあります。今だけは、カメさんイーリスの腕の中に宝物があります。今だけ、借りているだけだけれども、それでもほのほのとあったかいものが、腕の中にあって、胸の中にあるのです。その時間が続けばいいのになんて思いながら、カメさんイーリスはゆっくりゆっくり帰り道を歩いていくのでした。


ウサギさんフレアが目を覚ましたのは、カメさんに家まで送ってもらってからでした。玄関先で目を覚ましたウサギさんは、ちょっとばかり悔しそうでした。だって、せっかくカメさんを待っていたのに、ずっと寝ていたなんてもったいないですしね。
それから、次のお休みの日に、お弁当をもって今度は皆と一緒に山裾の泉の花を見に行ったのでした。やっぱり、一人で行くよりも皆と一緒に歩いていくほうが楽しいものです。
ウサギさんフレアが作った花冠は、カメさんイーリスのお部屋に大事に飾ってあります。


おわり




おもちゃ箱」のきいこさんに、お引っ越しのお祝いにお贈りしました(^^;;)
なんというか、自分のドリーム押しつけていますね(^^;;)
ほのぼのに見せかけて、かなりイーリス寄りな話になっててすみません・・・
はい、これ読んで??と思われた方、ええ、そうです。
イーリスの片思いです。ごほごほ。。。ウサギさんに(笑)
まあ、それはおいておいて、某所で着ぐるみの話になったときに、何故か
イーリスってカメでしょ、ということになって(笑)
なんとなくわかるんですが。のんびりしてて、要領悪くて、でもじっくり一途(笑)
で、フレアちゃんのウサギさん着ぐるみは、また別のときに、ウサギさんダンスを
着ぐるみでしようよって話があって、かわゆいだろうなあ、なんて言ってたわけです。
で、せっかくウサギとカメなので、このような競演となりました(^^;;)
快く(というか無理矢理事後報告)ゲスト出演してくださいました
あさるんばさんの天使、ハナちゃん(まだらマングースちゃん)と
きゃのさんの天使、アリアちゃん(レッドマングースちゃん)にも
厚く御礼申し上げます♪





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