by きいこ
ぼんやり木の辺りを眺めながら、フレアは指輪をいじっていた。真珠の指輪。ルークがくれたもの。豪奢なのに普段でもつけられるような指輪で、左手の薬指につけてある。これは、婚約指輪。陽にすかして見るようにして、ふと手をあてた耳元に、フレアは動きをとめた。 「……あれ?」 左耳にはついてる。けど、右耳にある筈のものがない。 「落としちゃったのかな」 足元を見てみたが、見あたらない。しゃがんで探しても、やっぱりない。おかしいなと首をかしげた。公園のなかを歩きまわったから、どこかで落としたに違いない。召喚魔法で簡単に見つけられればいいのに。 「うーん…」 見つからない。なんだか泣きたくなってくる。 「どうしよう……」 ふと思い出す。「大声で呼べば、どこからでも飛んでくるがよ〜」 けど、どこからでもってのは無理よね。と思いつつ、空を見上げて、大きく息を吸いこんで、 「イーリス!」 「呼んだかいね〜」 とたんに、のそっと声がして、バサバサっと翼の音がしたかと思うと、上からどたっと天使が降りてきた。どうも落ちてきたようではあったが、 「イーリス?すごい。ほんとに来た」 「通りすがったら声が聞こえたがよ〜。わしに会いたくなったんじゃな〜」 ぽむぽむされて「うん、会いたかったの」といってから、フレアは用件をきりだした。いわく「イヤリングが落ちちゃったの」だから探すの手伝ってくれないかなーと。これでは呼べば来てくれる便利屋さんのよう。 「ごめんね。会いたかったのもほんとなんだけど」 「わかっちょる。大事なものなんじゃな〜。どこらで落としたかもわからんがよ〜?」 「ルークから指輪とお揃いでもらったものなんだけどね。 いつもつけてないのに、たまにつけてきたら落としちゃうんだもの。銀のイヤリングなの」 「銀なら光って見つかりやすいかもしれんのう。わしも探しちゃるきに、泣いたらいかんがよ〜」 いいながら、すでに探し回ってくれている。フレアももう片方のイヤリングを外してポケットのなかにしまいこんでから、公園のなかを、うろうろと探しまわった。 「けど、泣きたかったら泣いてもいいんだよね?」 つい確認するように訊いてしまう。見つからなかったら、ほんとに泣きたくなるだろうしと、いまから考えて悲しくなる。 「こねいなことでまで泣いておったら、かわゆいおめめがとろけるがよ〜」 「あ、お上手」 くすくす笑うと、 「ルークの言葉をメモしてあるけんの〜」 と、返ってくる。ルーク、そんなこといったかな?と首をかしげるフレアに、 「ふたりで探せば見つかるがよ〜、話しながら探せば気も紛れるしの〜」 イーリスはそういって、任務のことや、想い出話や、最近あったことなど話しはじめた。どんどん時間が経っていって、日が傾いてきたころ、 「これじゃないかの〜」 話の途中でイーリスがのっそりつぶやいて、おおきな指に器用にイヤリングをつまんで、フレアのてのひらにのせた。銀の小さなイヤリングが光っている。 「うん、そう。これ。……よかったあ」 大切そうにてのひらに包んで抱きしめる。 「フレアにとっちゃ、それも、つながりのひとつなんじゃな〜」 そんなフレアを見ながら満足そうにうなずいて、イーリスは大きくのびをした。 「さあて、わしは、そろそろ戻らんといかんがよ〜」 「ありがと、ほんとに。来てくれたし」 「フレアが呼べば、どこからでも飛んでくるがよ」 と、ウィンクする。フレアは、いまにも飛び立ちそうなイーリスに、 「ちょっと待って」 と、慌てて声をかけた。 「あのね。これなんだけど、もらってくれるかな」 イーリスの手をとって、そのてのひらに、小さな石をのせた。 「黄水晶なんだけど。イーリスって黄色って感じがするから。いま、イーリスがいったけど。これも、つながりのひとつってことで…」 つながりに「物」は必要ないのだと、イーリスはいいかけて、笑ってごまかした。 「わしが貰うても、ええかよ?」 「うん。べつになくしちゃっても構わないから」 「なくしはせんがの〜」 意味はないかもしれんのう。と苦笑する。フレアは、ふと言い方を変えた。 「ちょっと遅くなったけど、誕生日おめでとうの意味もこめて。加工してない石で悪いけど、好きなものに加工できるのもいいかなってね」 「プレゼントかよ〜」 とたんに嬉しそうな顔になる。フレアは、ぷっと吹きだした。イーリスの心の流れがわかるようで、 「いつも、どうもありがと」 イーリスの喜んだ顔を見て、嬉しくなって笑った。 「あらためていうことでもないがよ〜」 照れたような笑顔を残して、時間が差し迫ってるらしいイーリスが、わたわた帰っていくのを見送りながら、フレアは、イヤリングをつけなおした。 時間がないのに探してくれたんだなーと、しみじみする。 「ありがと」 心からの感謝をこめて。 おわり |