虚ろな空




 京の空は青く高く澄み渡っていて、平家の怨霊に穢されていると言われても、まるで嘘のように思えた。
 陰陽師の修行を積んでいた頃、京は自分にとってどこかよそよそしい寒々とした場所に思えた。
 しかし、今はむしろ、鎌倉から離れてほっとしている自分に、景時は苦笑してしまう。これだけ遠く離れていては、さすがに、荼吉尼天の力も及ぶことはあるまい、と思えるからだ。
 ただ、鎌倉に置いてきた母のことだけは心配だった。もしも自分がここで不穏な動きを見せでもしたら、母の命は即座にないものとなるだろう。そう思うと本当の意味でのんびりした気持ちになどなれはしないのだが、それでも心配が減ったとは言えるかもしれない。
「景時!」
呼びかけられて景時は振り向いた。京での景時の邸宅である京邸の縁に立ち、庭をぼんやり眺めていたのだが、その静寂を破るように足音も高くやってきたのは、景時と共に京にやってきた源氏の御曹司・九郎だった。
「また、怨霊が出たらしい。行ってもらえるか?」
「ええっ、また〜? ホントに勘弁して欲しいよね、平家も頑張るなあ〜」
先ほどまでの物思いを振り払うように、景時は肩を竦めて軽い調子を心がけてそう返した。九郎は溜息をつきつつも少し怒ったような顔でぶっきらぼうに言葉を続ける。
「仕方ない。とにかく、民が困っているらしい。戦場なら兵たちが相手もしようが、
 どうやら、哀れな鍛冶師が怨霊に取り付かれて暴れているらしい。取り押さえているが、祓える人間がいないそうだ」
「あぁ〜、はぐれ怨霊ね。は〜、ほんとに困るよねえ。ちゃんと取りこぼしなくまとめてくれなくちゃ。
 置き土産なんて不要だよ。でもまあ、それじゃそんなに大したものじゃなさそうだね」
そう言って景時は懐から懐紙を取り出すと縁から部屋へ戻った。そして文机の前にしゃがむと筆をとり、何やら紙に書き付け始める。
 その様子を九郎がじっと見つめていた。景時は、4、5枚ほど何かを紙に書き付けるとそれを丁寧に折り畳んで丸め、小さな金型の筒に入れた。それを腰に下げた小さな袋に入れて愛用の銃を手に取る。
「多分、これでなんとかなるでしょ。んじゃ、ちょっと出かけて来ますか!」
景気良く声を挙げる。
「すまん。お前には面倒をかけるな。だが、俺は陰陽術を使えるお前がいてくれて本当に助かっている。
 まさか、平家が怨霊など使ってくるとは思ってもいなかったからな」
「ちょ、ちょっと九郎、やめてよ、そんなこと言うのは。全然大したことじゃないんだから」
素直な九郎の言葉に景時は慌てて両手を振った。この真っ直ぐな九郎の気性をどれほどに羨ましく思ったことだろう。出会った頃からずっと、九郎は、景時が自分もこんな人間でありたかったと思うような、彼のような人間が梶原の嫡男であれば父も満足だっただろうと思うような、そんな人間だった。
 景時のあんまりな慌てぶりに九郎は相好を崩し、
「何人か供をつけるか? 朔殿はどうする?」
と尋ねた。黒龍の神子であると知れた朔は、平家が戦に使い出した怨霊を鎮めるために景時と共に京へやってきていた。
 そして、それは、朔自身の願いによるものでもあった。本当ならば愛する人と一緒に来るはずだった京を見たいという思いと、京で何が起こり何故に黒龍が消えてしまったのか、それを知りたいと願ったのだろう。
 その気持ちがわかったのと、鎌倉に朔を置いていく気になれず、景時は朔の京行きを受け入れたのだった。
 だが、今も本来なら尼僧である朔を戦場へ連れていきたいとは思っていない。怨霊を鎮めることはできても、黒龍の神子である朔には封印はできないのだ。九郎の問いに考えるまでもなく景時は応える。
「うーん、いいよ、一人で行く。あんまり物々しい感じで行ってもさ、皆もびっくりするだろうし。
 取り押さえることができたってことは、ほんと、そんな大した怨霊じゃないんだと思うよ。
 ま、夕方には戻るから」
ひらひらと片手を振って、景時は九郎の脇をすり抜け京邸を後にした。


 九郎を初めて見たのは、富士川のほとりだった。頼朝の弟が仲間を連れて馳せ参じたのだと随分と話題になった。
 平家の軍との戦の最中で、陣を張っての軍議の最中にもたらされたその報せに歓声が上がったものだ。源氏の御曹司が二人、それだけで意気もあがった。
 その後、頼朝が九郎と対面した場面では、その場にいた多くの御家人たちも感涙した。頼朝の前に伏し、滔々と兄を慕い駆けつけた心情を語る九郎を景時はそれだけで、なんと気性の真っ直ぐな青年だろうかと好感を持った。
 そして、そんな九郎に自ら歩み寄り、肩に手を置き言葉をかけた頼朝に、いくら頼朝であれども肉親の情というものはあるのだと安心したような気持ちになったことも覚えている。もっとも、今になっては、それさえも幻想だったと良くわかっているのだが。
 その後、景時は源氏の御曹司など自分とは縁の遠い存在だとばかり思っていたのだが、直接に会話を交わすことになったのは九郎から声をかけられてのことだった。
「梶原殿、梶原景時殿」
そんな風に改まって呼ばれることなど、なかったので景時は驚いてしまって口をぱくぱくさせるくらいしか出来なかったものだ。
「梶原殿に、兄上が石橋山で命を助けられたとお聞きした。
 梶原殿は源氏の恩人。九郎からも礼を申し上げる」
その言葉に景時は更に言葉を無くす。その真相は頼朝と景時しか知らない。そして頼朝がそう話しているのだから誰もが九郎と同じように思いこんでいる。そしてそう言われる毎に景時は沈んだ気持ちになるのだ。
 その戦功故に景時を重用するのだと頼朝は周囲に納得させている。だが景時はそんなことが理由ではないと良くわかっている。頼朝は自分のいいなりになる犬のように忠実な手駒が欲しいだけだ。
 そして、恐怖こそが人を何よりも忠実にさせるのだと思っている。景時はその通り、頼朝に忠実な犬だ。それでも自分自身の心を捨てられないから、架空の戦功を褒められると惨めな自分を突きつけられたような気持ちになってしまうのだ。
 たとえそれが自分自身のせいだとしても。
 そんな複雑な気持ちと同時に、景時は九郎という人間の正直で曇りのない性質に更に好感を持った自分も感じていた。
 頼朝のような王者の風格というものはさすがに九郎にはないように思えたが、それでも人を惹きつける明るい魅力が彼には感じられた。
 幼い頃から頼朝とは異なる意味で苦労を重ねてきたと聞いていたが、それでもそんな陰を感じさせない明るさが九郎にはあった。
「そ、そんな、九郎殿に頭を下げていただくようなことは何もありませんって。
 本当に、オレは何もしてないんだから……」
慌てたようにそう言う景時を九郎は訝しげに見つめてはいたが、それでも礼を失せぬように一礼してその場を去った。その後ろに影のように控えて景時を見ていたのが弁慶だったが、そのときはそうと知る由もなかった。
 後に九郎自身がこのときのことを指して『兄上を救ってくれた御家人と言うから、若いのにどれほどに優れた武士かと思ったら、存外に軽いものだから本当にそうかと一瞬考えてしまった』と言ったものだ。
 景時はそれを聞いて『ひどいな、九郎』と内心を隠した乾いた笑いを漏らしたが、それに続けて九郎は『悪かった! だが、その後、お前と一緒に戦うようになって、やはりお前なら、と思い直したのだ。お前は、戦のさ中でも何が大切で必要かちゃんと見通す目を持っている。信頼するに足る将だ』と、赤く照れた顔でそう言ったのだった。
 そんな九郎に、「うわ〜〜! 感激するなあ、そんな風に言ってくれるのって九郎くらいだよ〜」と暢気に答えながら、景時は苦い思いを噛み締めたのだが。
 真っ直ぐで人を疑うことを知らない。九郎の前にいると、自分がどれほどに汚くて卑小な人間なのか思い知らされる。
 それでも、まだ景時は安心していたのだ。頼朝が九郎と再会したときに見せた表情に。肉親の情があるということに。九郎ならきっと裏切らずに済むだろうと安心していたのだ。京に来るまでは。




 京に上ってくるのも簡単なことではなかった。それでも本当の戦は京に入ってから始まった。
 平家はそのころ既に都落ちをしていたが、怨霊との戦いは骨が折れた。なんといっても人ではない。戦う兵たちも恐怖を覚えるものも多かった。そのうえ、封印ができない。
 そのときは倒すことができたとしても時間が経てば復活するのだからきりがない。
 要するに怨霊を作り出している平家の大元を倒さねばこの戦は終わらないのだ。源氏と平家と、どちらかが滅びるまでは終わらない。
 京の民に源氏の軍勢は容易く受け入れられたわけではなかった。そもそも東国の無骨な武士たちを、京の雅な殿上人は蔑んだものだ。それでも怨霊が京を跋扈しはじめ、それを源氏の武士たちが倒し、鎮めるうちに市井の人々の中には源氏を歓迎する動きも見え始めた。
 戦が早く終わるのであれば、そして自分たちの生活を守ってくれるのであれば、源氏だろうと平家だろうと民には関係ないのだ。そして、京で幼少時を過ごしたという九郎や、同じく京で陰陽師の修行をしたという自分の経歴が、少しは役立っているようだった。
 東夷の中でも京で長く暮らした将だけあって、風雅というものを知っている、などと何時の間にか噂されているらしい。思うに人の口というものは、嘘でさえも本当に変えてしまうものなのか、景時はといえば何時の間にか優れた陰陽師ということになっている自分の評判を、源氏のためにも落とさないようにするのに実は必死だった。
「ごめんね〜、怨霊に憑かれた男がいるってここかなあ?」
 小路の片隅に人だかりが出来ているところを見つけ、景時はいつもの調子で声をかけた。内心の不安を押し隠すためにわざと飄々と振舞っているのか、これが昔からの自分なのか最近は良くわからない。多分、昔から自分はこんな調子だったのだろうけれど、不安を隠すためにわざとそれを強調して振舞っているうちに、何が自分なのかわからなくなってきていた。
 嘘の自分も、それでも自分のうちなのだろうと、考えることはとっくに辞めているけれども。
 ざわざわと集っていた人々の目が景時に集まる。
「もう大丈夫だからね。ぱぱ〜っと祓っちゃうから、ちょっとだけ手を貸してもらえるとありがたいけど」
「源氏の方ですか」
「うん、そうだよ」
 ほっとしたような声で、男を取り押さえていた者が言う。名乗るべきかなあと迷いつつ、とりあえずそう返事を返すと
「って、梶原様だよ! 梶原様が来てくださったならもう安心だ」
という声があがる。京へ来て以来、望むと望まざるとに関わらず、陰陽師としての仕事が格段に増えた景時は京の民に姿を知られることも多かった。
 その声に、困ったような照れたような顔で景時は、まあまあ、と手で彼らを抑えるように振ると、押さえられている男の傍に膝をついた。その頭に手をやろうとすると、それまで大人しく押さえられていた男が突然に顔を挙げ、獣のような唸り声を上げて景時の手に噛み付こうとする。
 低い唸り声は野犬のようで、口の端からは泡の混じった涎がとめどなく溢れてきていた。
「ん〜……そんなに凄いのじゃなさそう。良かったね」
 最後の言葉は、周囲の人間に対してなのか、憑かれた男に対してなのか、それとも自分に対してなのかが微妙なところだ。いずれにしても、見たところ、自分が用意してきたもので何とか祓えそうだと判断した景時は、男の周りを取り囲んでいる人々にもう少し離れるようにと指示をした。そして男を中心として何やら地面に石で図を描き始める。
「なんていうかねえ、京に来てから、こればっかり描いてる気がするよ、ほんと」
けして得意だったわけではないが、こう何度も繰り返しているといい加減確かになれてくるものだと内心思う。そして描き上げると男を抑えている人間たちにも声をかける。
「んじゃ、大丈夫だから離れて」
 おずおずと半ば不安そうに、男を抑えていた人間たちが身体を起こす。うなり声を上げる組敷かれた男が力の抜けた自分を抑える腕から逃れようと暴れ始め、また慌てて人々はその男を押さえつけた。
 それに向かって景時は、大丈夫だから、と再度言い募り、頷くと「手を離したら急いでその図形から外へ出てね、ちょっと大変かもしれないけどね」と言う。人々は頷きあうとお互いに顔を見合わせ、息をそろえて男から手を離した。
 それから男が掴みかかろうとするのを避けるように慌てて外へ出る。瞬間、景時の銃が放たれ、男の動きが止まった。
「はい、結界完成。あとは簡単ってね」
軽く言いながら、景時は銃の中に新しい弾を入れた。




 京へ兵を率いて上る、という命令を受けたのは九郎だった。頼朝からのその命を、九郎は感激した面持ちで受けていた。兄の名代として京へ上り、平家を討つ、彼がずっと望んでいたことだろう。
 兄の力になりたいと、鎌倉に来てからも一心に思いつめていたのを知っている。そんな九郎を宥めつつ、お前には期待しているが源氏の御曹司として恥じぬ舞台を用意したい、と言う頼朝に、兄弟の情もあってのことだろうかと、思っていたのだ。そしてその舞台が、京へ上ることだった。
 その際に九郎の補佐として軍奉行という地位を与えられ景時が共に京へ上ることとなった。その頃には年も近いこともあって、多少は気の置けない仲となっていたため、お互い遣り易いと思ったのも確かだが、それ以上に、頼朝が自身の腹心の部下を与えてくれたということで、九郎はまた感激したようだった。
 景時自身は、朔のこともあって自分が京へ登ることになったのかと思ったのだが、頼朝の本当の狙いは京へ出立するそのときにわかった。手渡された一通の書状。
 自分はまだまだ頼朝という人間を知らなかったし、甘かったと痛感したものだ。九郎について逐一の報告を、という書状には、肉親の情の欠片もなかった。むしろ、少しの失策も見逃さずに告げよ、という言葉には九郎に対する敵意と猜疑心が感じられた。
 九郎は、成功と共に失脚を願われているのだと、やっと気付いた自分を迂闊だと思ったものだ。何故、自分は九郎と友人などになってしまったのだろう、とそのことこそを迂闊に思った。
「兄上からの書状には何と?」
無邪気に問いかけてくる九郎に、そうと言えるはずもなくて、「九郎を助けてしっかりやれ、って。オレ、失敗ばっかしてるからさあ」そんな風に誤魔化した。
 自分は、自分を友として信頼している九郎を裏切っている。今はその動向を鎌倉に伝えるのみとはいえ、頼朝がそうと願ったとき、彼を、あの時と同じように、討つことになるのかもしれない。
 自分は、そうなったとき、やはり、自分が生きることを願ってしまうのではないだろうか。死にたくない、と、だから九郎を手に掛けることを選ぶのではないだろうか。そのことが何よりも恐ろしくて、自分が信じられなくて、誰かに止めてほしくて、そして、結局すべてを諦めた。




「ただいま〜〜……は〜、疲れたあ」
夕方に屋敷に戻った景時を迎えたのは弁慶だった。
「ご苦労さまです。って、そんなにたいした怨霊じゃなかったのでしょう?」
にっこり笑って労いつつも、一言は忘れないのが弁慶で、景時はやっぱり
「弁慶は酷いなあ〜たいしたことなくたって疲れるものは疲れるって」
と情けない声を出す。弁慶はそんな景時を見て苦笑する。それはけれど、お互いどこか芝居めいたもので、そのことにちゃんとお互い気付いてもいて、口にはしない。無言の了解のようなものが弁慶との間にはあった。
 弁慶が景時のことをどう思っているかはわからないが、景時は九郎に弁慶のような人間がついていることに安心していた。
「おや、それでも一応、怪我でもしていては可哀相だと思って待っていてさしあげたのに」
にっこり笑ってそう言う弁慶は、それでも目は笑ってはいない。
「九郎は?」
「もう屋敷に帰ってますよ。君が無事なら僕ももう帰らせてもらいます」
「何、本当にオレの心配して待っててくれたわけ? 感激しちゃうなあ」
大げさに両手を広げて盛大に息をつく。その様子に弁慶が苦笑を漏らす。今度は本当に溜まらず笑いを漏らしてしまった様子だった。そして肩を竦めて溜息をつく。
「本当に、君はよくわからない人だな。憎めないところが、実に一番困ったものです」
「……それって褒められているんだよねえ? なんて返せばいいのか困っちゃうな」
弁慶の言葉の裏の意味に気付かぬようにそう言って、笑いながら景時は部屋へ向かおうとする。
「……僕は九郎ほど優しくも正直でもない人間なので、どうしても裏を疑ってしまうんですよ。
 君のことも、どこまで信用していいのか、まだ迷っているんです。……でも、まあ、いいでしょう。
 君が頼朝様の配下であるとしても、目的が同じである間は味方であることに違いはありませんから」
さらりとなんでもないことのように弁慶はそう言った。景時はその言葉を聞いて口の端に笑みを浮かべた。弁慶は正しい。彼がいれば、九郎も安心だろう。景時を信じきることのない人間が傍についていてくれるなら、きっと。
「……やだなあ、オレ、九郎の友だちだよ〜? そりゃあ弁慶とは比べ物にならないくらい付き合いは浅いけどさあ。
 弁慶とだって仲間だと思っていたのに、そんな冷たいこと言われるなんて、オレってそんなに信用ないのかなあ〜」
情けない表情を作って弁慶を振り返り、大仰に溜息をついてみせる。こう見えてもオレだって、京に来てから一生懸命仕事してるのにさあ、と言葉を続けて殊更に嘆いてみせると弁慶も困ったように笑いだした。
「……すみません、悪かったですよ、冗談です。
 僕はちょっと疑い深くできてるんですよ、九郎が正直すぎて苦労させられている分ね」
「本当に冗談〜? こう見えてオレ、傷つきやすいんだから労わってよね〜」
それもまた、ひとつの決まりきった台詞のようなもので。お互いにそれが表面上だけの言葉だとはわかっていた。けれど、それもまた互いの間の暗黙の了解のように、それ以上には何も言わない。裏を暴こうとはしない。
 それこそ弁慶の言う通り『敵の敵は味方』である間は、信頼できる仲間と言えるからだ。
「それじゃあ、僕も遅くなる前に帰ります。とりあえず、今日はご苦労さまでした」
 弁慶はそう言い置くと帰って行った。その後姿を見送って、景時は溜息をひとつ、つく。
 平家を相手に戦っている間は……目的が同じである間は、九郎が頼朝の有能な道具である間は、そして、荼吉尼天の力の及ばぬ京であればこそ、彼らを裏切らずにすむと、仲間でいられると、無邪気に友だちの顔をしていられると、思って居るけれど。
 不意に自分に課せられたものを思い出すと、自分以上に汚い人間などいないと思える。



 仲間、だけれど、仲間ではない。仲間、だけれど、自分を信用してほしくない。いつか自分は彼らを裏切ることになるのだから。
「……いつか、天罰を受けるだろうなあ……仕方ないけどね」
自嘲気味に呟くその声は、薄闇の中に融けて消えていった。






いろいろ捏造話のその2。九郎と景時の出会いはでも公式で出るんだろうなあ
弁慶と景時っていうのは、ちょっと似たところがある感じというか、お互い何か隠してるのを

知っていながら核心には触れずにいるようなイメージ。
そのときそのときにおいては相手を信用しているけれど、最後の一線は信じてないような。
でも、景時は自分を一番信用していないので、却って弁慶を信頼していたりする、みたいな。
でもきっと、八葉とか神子とかいう要素が絡むと、また変わってくるんだろうな。
次から望美ちゃん登場の予定。


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