■銀の剣・その後■ さやぎさま
それは、べテル宮にも夜の帳が下りる時刻のこと。
「おかえりなさいですぅ、サリューナ様〜…はれ?」
「お帰りでしたか、天使様。…サリューナ様?」
出迎えた二人の妖精、間延びしたフロリンダの声にも、けげんそうなローザの声音にも、
サリューナは返事も返さず、上の空といった様子で執務室に入っていった…三秒後。
がっつんっ!!
「きゃっ!…きゃ、きゃあああぁっ!」
どさっ、どさどさばささーっ!!
「わきゃあぁっ、サリューナ様ぁっ!」
「何をやってらっしゃるんですか、もう!」
「ご、ごめんなさい。あら、わたしいつのまに帰ってきたのかしら…?」
書棚に正面からぶつかり、本の山に埋もれてしまった天使の間の抜けた台詞に、妖精たちは黙って顔を見合わせた。
「…そういえば、今日訪問なさったのは、シーヴァス様でしたわね」
「サリューナ様ぁ、またいじめられたんですかぁ?もしそうだったら、フロリン、カンガルーパンチでおしおきしたげますよぉ?」
ぶんぶんと腕をふりまわし、すでにカンガルースタイルと化しているフロリンダの目は真剣である。
「えっ、ち、違うの、なんでもないの!」
真っ赤になって、首をふるふると振っている天使の様子を見れば、何かあったことは一目瞭然である。もっとも、天使が彼のもとを訪れるたびに毎回必ず「何かある」のだが。
しかし今日の反応は少し違う、と、二人がまた顔を見合わせたとき、
「さ、さあ、本を片付けなくちゃ!フロリンもローザも、遅くなってごめんなさいね」
やけに張り切った声をあげて、サリューナは立ちあがって辺りを片付けはじめた。
「…明らかにおかしいわね…」
「そーだよねぇ〜。いっつもはからかわれて落ち込んでるのに〜」
ひそひそと話し合う妖精たちの声も、サリューナの耳にはまるで入っていなかった。