■それでも君に花を■ あんなさま
「まあ、これを私にくださるのですか? ありがとうございます、シーヴァ
ス!」
受け取った赤いバラの花束が霞んでしまうほどの笑顔を見せて、天使が言った。
あまりの喜びように、シーヴァスも思わず顔がほころぶ。
プレイボーイで知られている彼が女性に花を贈るのは初めてではない。
だが、相手の笑顔を見て嬉しいと思うのは、初めてのことだった。
「それほど喜ぶとは思わなかった。珍しい花という訳でもないのに」
少々ひねくれた物言いにも、天使は明るい声で答える。
「だって、きれいじゃありませんか。それに、シーヴァスがくれたものです
し・・・」
いくぶん頬を染めてうつむく。
シーヴァスはそんな彼女をいとおしげに見つめ、天使の頬に腕を伸ばす。
その手が彼女に届く前に、娘が思い出したように顔を上げた。
「そろそろ戻らないと。シーヴァス、本当にありがとうございました。大切に飾
らせてもらいますね」
「そうか」
伸ばした手は、頬に軽く触れるに留まった。
「あ、あの、シーヴァス・・・またお話をしに来てもいいですか?」
シーヴァスの優しい瞳に再び頬を染めつつ、遠慮がちに訊ねる天使。
いつまでたっても不必要に礼儀正しいのだ。
知れたことを、と思いながら青年は答える。
「ああ。たまには君と話をするのも悪くない」
彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます。それではまた、シーヴァス」
「ではな」
天使はシーヴァスに背を向けて純白の翼を大きく広げた。
その後ろ姿をシーヴァスは瞳を細めて見送る。
翼でなめらかな弧を描き、天使は天界へと飛び立った。
ばさばさばさーっ
ビシバシビシバシビシッ
数秒後、微笑を浮かべている青年の顔面を、赤い花びらがすさまじい風圧でもっ
て直撃していた。
腕の中のバラが見事に散ってしまっているのに天使が気付いたのは、天界に到着
した後のことである。