■同じ空を見ている■ きいこさま
いったい、どういうつもりなんだろう。
プレイボーイなんて、ほんとは、エセなんじゃないのか?他の勇者のように贈りものくらいくれたっていいじゃないの。なんて、天使にあるまじきことを心のなかでつぶやきながら、フレアは、彼を見上げた。
このところ毎日のように面会を申しこんでくるくせに、いざ来てみれば、べつに用はない。ただ、試しに呼んでみただけだ、という。
もしかして、いやがらせだろうか。
そんなことを思いつつ、なぜか彼のもとへ来てしまうフレアは、なんだか我ながら、ばかみたいだと思う。
「すみませんが、シーヴァス。そろそろ時間です」
「ああ、気をつけて帰るんだな」
そっけないのも、いつものことで。まあ、いいけどね。こころとは裏腹な天使のほほえみを頬に浮かべて、背中の羽根を、ゆっくりひろげた。
「フレア」
ふいに名を呼ばれる。めずらしい。
「次に逢える日が楽しみだな」
からかっている。その瞳でわかる。こうして見下ろすと、彼の顔は、驚くほど幼く見えた。フレアは、その顔が、好きだった。
この顔が見たくて、忙しいのにわざわざ、こんなところまで会いにきてるといっても、過言ではないくらいに。
「そうですか?」
悔しいから、そっけない言葉の、お返しをして。おや、冷たいね。と笑う彼に、ふくれっ面をしてみせた。
「天使の顔か?それが」
このところ笑い上戸の彼は、笑い転げて、涙まで流してくれる。まったくこんな顔を、サロンのお嬢様方が見たら、なんと思うだろう。
「もう、ほんとに時間ないから帰りますよ」
「悪かった。もう呼びとめないよ」
軽く手を振って(まるで追い払うように)背を向ける。
その背中を、一瞬、真顔で見つめて、もう振り返らないことを確かめてから、フレアは、翼をはためかせて、空にあがった。
闇にも映える金糸の髪が、彼女のからだを、つつむように舞っている。
シーヴァスは、振り返った。
その夢のような光景を仰いで、彼女の姿が空に消える瞬間を見た。消えたのを、確かめるように、何もない空を見すえている。
「・・・まいったな」
ただ逢いたくて、彼女を呼ぶ。まぶしくて、目をそらす。気のきいた言葉ひとつ、その名まえを呼ぶことさえ、ためらっている。
こんな自分は、自分ではない。でも、こういうのも、悪くない。
「そうだな」
引き剥がすように、空から目をはなした。
「当分、退屈しないですみそうだ」
軽い言葉に真実を隠して、自分に嘘をつくことにも慣れている。
素直じゃないのは、お互いさまだ。
無意識と故意と、どちらの罪が重いだろう。
天使と入れ替わるようにやってくる、小さな妖精を見つけて、シーヴァスは、口元だけで微笑んだ。
無関心そうでいて、迷惑そうでいて、それでも、いつも、つなぎの妖精をつかわしてくる、天使のこころを想いながら。