■近くて遠い距離■ BY.森生
窓の外は、闇だ。
暗く、どこまで続くともしれない闇。
だが、一筋の光が闇を切り裂いて、彼の元に降りてくる。
淡い栗色の髪、優しい瞳、そして白い翼。
ただ、まっすぐに彼を目指して、彼女が天空から降りてくる。
このインフォスのすべてを照らす、希望の光。
勇者を導く、至高の天使。
それが、ただ一人、自分のための存在であればどんなにいいかと思うようになってどれほどになるだろう。
「シーヴァス?」
窓の外から天使が彼の顔をそっとのぞき込む。
薄いガラス一枚が、何よりも厚い壁のように思える。
こんなに近しく彼女を見ているのに、彼女は何よりも遠い存在だ。
人と天使の恋が成就することなどあるはずもない。
「シーヴァス・・・あなたの顔が・・・影になって見えませんが・・
あなた、今、寂しい顔をしているんじゃありませんか・・・?」
彼女には、隠しても隠しても、本当の自分を見つけられてしまう。
平気な顔をしていても、そうじゃないと見透かされる。
「なぜ、そう思うんだ?」
「・・・あなたが・・・黙っているからです」
「私とて、時には黙り込むこともある」
天使は、そっと窓にかかっているシーヴァスの手に自分の手のひらを重ねた。
「あなたの手から、想いが伝わるからです」
「・・・君はずるいな。君のことは私にはわからないというのに
君には私のことがわかってしまうのか」
天使は困った顔をして、じっとシーヴァスの顔を見つめた。
「・・・私だって・・・誰のことでもわかるわけじゃありませんよ」
そして、その視線をガラスを隔てて重なっている手に落とす。
『この手を通して、私の思いもあなたに伝わればいいのに・・・』
そう一瞬思い、けれど天使はそんな想いを振り払う。
一人の勇者に心を奪われてはならない。
彼女には、インフォスを救うために勇者たちを導く使命があるのだから。
うつむいた彼女を、シーヴァスはじっと見つめていた。
彼の本当の気持ちを、彼女とてすべて理解しているわけではない。
『私の君に対する本当の気持ちに気づいたら、君はそれに応えてくれるのだろうか』
重なる手が、伝わるぬくもりが、届かない想いをより寂しく感じさせた。
それでも、その手を互いに離すことができずにいた。
いつか、この手を、何に隔てられることなくつなぐことができるのだろうか。