■リボンな騎士■ BY.森生
シーヴァスは、最後の敵を屠ったのち、、剣についた血糊を振るった。
最近は、現れる敵も強くなってきたが、シーヴァス自身の能力も上がってきていたので、さして苦労することはなかった。援護してくれる天使の癒しの力が増幅していることもあるだろう。
ほっと息をついたシーヴァスは、天使の姿を求めて空を仰ぐ。
彼の視線の先、空の青にふわりと白い翼が舞っていた。
「シーヴァス・・!」
柔らかな鈴の音のような声が彼の名を呼ぶ。ふっと微笑んでシーヴァスは天使を地上に迎えた。
「ご苦労様でした。ほとんど、私の援護の必要がありませんでしたね。
本当に・・・毎日鍛錬していただいてるおかげですね」
にっこりと笑顔で天使が彼に語りかける。
「これくらいの敵、たいしたことではない。手ごたえがなくて困るくらいだな」
余裕を見せてシーヴァスが言う。天使はその言葉を聞いて、可笑しそうに笑った。
「ええ、これからも頼りにしていますね」
冗談だと思っているなとシーヴァスは苦笑する。半ばは強がりも混じっているが、彼女の依頼のすべては自分で引き受けたいと思っているのは事実だ。
彼から少し離れた場所に降り立った天使にシーヴァスは手を差し出す。天使はにっこり笑って彼の手に自らの手を重ねた。
彼に手を引かれて歩みよろうとしたそのとき、天使が小さく声をあげた。
「・・・あ・・」
「? どうした?」
そう言ってシーヴァスが天使を振り向くと同時に、彼の流れる金髪をとめていた紅い紐が切れた。長い髪が風に舞う。
どうやら、先ほどの戦闘で切れていたらしい。シーヴァスはほどけた髪を面倒そうにかきあげた。
「・・参ったな・・」
しかし、天使は髪のほどけたシーヴァスを見て驚いたような顔をしていた。そんな天使の表情を見て、シーヴァスが怪訝そうな顔をする。
「? どうした?」
その言葉にはっとして、天使が顔を紅くする。
「あ、・・すみません、その・・・髪をほどいたシーヴァスは初めて見ました・・・」
「なんだ、そんなことで。 私だって四六時中髪を結んでいるわけではないぞ。
ただまあ、邪魔になるからだな・・・」
そう言いつつ、髪の毛先を指でつまむ。そうして、低く舌打ちをした。
「ああ、髪も切られたな。面倒な・・」
そんなシーヴァスに向かって天使が面白そうに言う。
「そろえて切ってしまいますか?」
それを聞いて、シーヴァスは天使の顔を見返すとしばらく考えこむようなそぶりを見せ、それから言った。
「・・そうだな、それも悪くはないかもしれないが、ご婦人方が泣くだろうからやめておこう」
くすくすと天使が笑う。シーヴァスはそんな天使を見て肩を竦めた。少しは焼きもちでもやいてくれれば望みもありそうなものだが。
「そうですね、私もシーヴァスの長い髪が好きです」
天使が屈託なくそういうのに、シーヴァスの方が意識してしまう。もちろん、彼女にはそんな深い意味はないのだろうが。うるさそうに顔にかかる髪をかきあげているシーヴァスを見て、天使が白いリボンを取り出した。
「シーヴァス、これで・・」
と差し出すのに、シーヴァスが言う。
「君が結んでくれ」
一瞬戸惑ったような顔をした天使だったが、頷くとシーヴァスの後ろにまわった。柔らかな天使の手が髪を梳かすのを心地よくシーヴァスは感じた。一生懸命な彼女が彼の背中に身体を近く寄せるのを感じて少しくすぐったくも思う。もうしばらく、そのままで・・・と思ううちに、彼女の指がリボンを結び終えたのだろう、彼女が離れた。
シーヴァスが目をあけると、彼女が彼の前にたち、自分が結んだリボンの様子をにこにこと眺めていた。
「かわいく結べました」
会心のできとばかりに喜んで言う天使にシーヴァスは
「かわいいのでは少し困る」
と口の中で呟く。が、はっきりとはいえないのは彼女が結んでくれたものをと思うからだ。嬉しそうな顔の天使を見て、シーヴァスは苦笑すると、まあいいか、とばかりに白いリボンを蝶々結びにしたままで歩きだす。その手を天使に差し出すと、にっこり笑って天使が彼の手に手を重ねた。